アメリカとイスラエルがイランへの攻撃を開始してから半月が経つ。だが2015年、同じ危機は外交によって回避された。その舞台裏では、何が起きていたのか。国際政治学者の高橋和夫さんは「イランへの敵意が広がるアメリカ社会では例外的に、オバマ政権内部にはイランへの親和性があったのではないか」という――。

※本稿は、高橋和夫『イランとアメリカ、そしてイスラエル 「ガザ以後」の中東』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

イラン核合意をめぐるオバマ政権の政治戦

一発の弾丸を撃つこともなくイランの核武装を外交によって阻止した。これが2015年のオバマ政権の認識であった。

問題はアメリカ議会の反対であった。そもそも議会は交渉自体に消極的であった。議会を説得するためにオバマ政権は、交渉が成立した場合には、その内容を議会に審議させると約束していた。

議会の過半数は、イランとの合意に反対であった。したがって議会は合意に反対する法案の可決が可能であった。もし、そうなればイランとの合意は潰れたのであろうか。

暗い空の背景にアメリカとイランの旗のレッキングボールがぶつかる
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アメリカの国内政治は複雑である。たとえ議会が可決した法案でも大統領が署名しなければ、法案は法案に留まり、法にはならない。この署名拒否を大統領の拒否権と呼ぶ。オバマ大統領は、拒否権の行使を明言していた。となればオバマ政権は議会の反対を恐れる必要はなかったのだろうか――。

それが、あったのだ。というのはアメリカの政治は、さらに複雑だからだ。

合意に反対するネタニヤフ首相の米政権批判

仮に大統領が法案への署名を拒否しても、それで話が終わらない場合もある。というのは、大統領が署名を拒否した法案を、議会が再び三分の二以上の賛成で可決すると、法律になる。

つまり議会は時として大統領の拒否権を乗り越える力を持つのである。この三分の二以上の多数を「スーパー・マジョリティー」と呼ぶ。ということは、このスーパー・マジョリティーの成立を阻止するには、三分の一以上の議員の核合意への賛成を取り付ければよい。

オバマ政権と議会のイラン合意への反対派との激しい綱引きが始まった。

議会の動向を考える上でのポイントの一つはイスラエルの意向である。イスラエルのネタニヤフ首相は、この合意を「歴史的な誤り」と呼んで批判した。アメリカの議員に、合意への反対票を投じるように求めた。

これまでは、イスラエル政府の呼びかけに対して、アメリカのユダヤ人社会は一致団結して支持するのが普通であった。ユダヤ系市民の人口は数百万に過ぎない。アメリカの総人口3億4000万の2%以下である。

しかし、その資金力やメディアなどでの影響力の強さもあって、人口比以上の重みを時には発揮してきた。イスラエルにとっては心強い応援団であった。