日本より人口が多いのに効率的な国も

本書で取り上げた国々は、スイスのビジネススクール国際経営開発研究所(IMD)が毎年発表している「世界競争力ランキング」でも、その政府の能力が高く評価されている(図表1)。

政府の効率性ランキング
出所=『稼ぐ小国の戦略

この指標は、財政政策、税制、金融政策、関税、競争政策、労働政策、社会の自由度や安定性などの観点から、政府のパフォーマンスを採点したものである。

スイスの機関が発表しているランキングで自国が最上位を占めている点は割り引いて見るにせよ、一人あたりGDP世界トップクラスの国々がこぞって政府の能力という点で国際的に高く評価されている点には注目したい。

このランキングで日本は評価対象67カ国・地域中42位(総スコア42.34)と、18位のカザフスタン(同59.73)、23位のインドネシア(同57.51)、24位のタイ(同55.14)、さらには27位の中国(同53.41)よりも低く評価されている。

「日本の官僚は有能ではないのか」と思われるかもしれないが、ここで筆者が問うているのは個々の官僚の能力ではない。

組織システムとしての政府が、豊かな経済なり安定した社会なりの実現という目的に向けて、世の中の変化に柔軟に対応して限られた条件を効率的に活かすことができているかということである。

「政府が効率的でいられるのは、目配りすべき人口や地域が限られている小国ならではのことであって、日本のように大きな国では難しい」と考える向きもあろう。

しかし、上述のランキングで日本より上位に評価されている国の中には、13位のオーストラリアや19位のカナダのように国土の広い国や、23位のインドネシアや27位の中国のように人口の大きな国もある。

そうはいっても、たしかに人口や対象地域が限られている方が柔軟な政策を大胆に行いやすいという点はあるかもしれない。実際、政府の効率性のランキングでも上位10カ国はほとんどが小国だ。

もしそうであるならば、日本もより小さな行政単位で機動的な政策立案を行えるよう、道州制のように抜本的な地方分権を進めるという道もあり得る。いずれにせよ、小国でないことを非効率な政府や政策の言い訳にはできない。

企業の予見可能性を高めていく必要性

②企業の挑戦を引き出す産業戦略

また、一人あたりGDP世界トップ10に名を連ねる小国では、自国の強みを活かす明確な産業戦略をもって企業の予見可能性を高め、成長に向けた挑戦を促す産業政策が行われている印象を受ける。

たとえば、シンガポールは、東南アジアの中央に位置するという地理的条件や、中継貿易によって発展してきた歴史的背景を活かして、ロジスティクス、金融、情報、先端技術など様々な面でアジアのハブとして成長を続ける戦略を掲げ、インフラ、テクノロジー、教育への積極投資や自由貿易協定の推進といった政策対応を行ってきた。

アイルランドやアイスランドも、アメリカに最も近いヨーロッパという地理的条件を活かし、両大陸を結ぶ海底ケーブルの中継地として、データセンターの誘致などを積極的に行っている。アイスランドについては、豊富な水力や地熱によるクリーンで安価な電力も、多国籍企業の誘致に活かしている。

ルクセンブルクの戦略は、1980年代以来育ててきた金融業と宇宙産業をさらに発展させることである。

金融については、資産管理、証券業務、監査、保険など、金融インフラに関わる分野に特に強みを持つが、新しいフィンテックも積極的に取り入れて競争力を高めようとしている。

また、宇宙産業についても、2018年に宇宙庁を設置し、民間宇宙活動に関する法律も制定して、関連企業への財政支援などを積極的に行っている。

日本も、自国の強みや弱みを踏まえて産業やエネルギーなどの将来像を政府が示し、企業の予見可能性を高めていく必要があろう。そうでなければ、様々な課題や状況変化に直面する企業を積極的な投資やビジネス活動に向けて突き動かせない。

経団連も、2024年4月に発表した提言書『日本産業の再飛躍へ』において、未来志向の挑戦によって積極的な投資を行うために「長期的な視点での産業戦略の確立を求める」と政府に提言している。