スイス、シンガポール、デンマークの共通点
また、多くの挑戦と失敗の中から、高い付加価値や生産性を実現する新たなイノベーションを生み出していくことも必要だ。イノベーションの創出にチャレンジしやすい環境を作ることこそ、日本が今まで以上に注力すべき政策の一つだろう。
世界知的所有権機関(WIPO)の「グローバル・イノベーション・インデックス」は、制度、人材、インフラ、市場やビジネスの成熟度、そして新たな技術・知見や創造性といった観点から、世界各国・地域のイノベーション環境を評価している。
その2024年版によれば、日本のイノベーション環境は133カ国・地域中13位とされており、日本の位置は悪くない(図表2)。アイルランド、ルクセンブルク、アイスランドよりも高い評価である。
しかし、上位を見れば、スイスやシンガポールはこの指標でも世界トップクラスの評価を得ている。また、アメリカ、イギリス、ドイツといった他のG7諸国も、韓国、中国といったアジアのライバルも、日本より上にいる。
日本より上位のスイス、シンガポール、デンマークに共通するのは、高度人材育成の重視である。人材以外には何もないという危機感の下、スイスやデンマークでは職業訓練が充実しており、高い能力と専門性を持った人材を社会に送り出している。
日本はイノベーション環境のさらなる改善が必要だ。そのためには、以下に述べる高度人材の育成や社会人のリスキリング、さらには海外からの優秀な人材や投資の積極的受け入れ、その全てが求められる。
高度人材育成とリスキリング
一人あたりGDP世界トップ10の小国経済について議論していると、異口同音に「人材こそが唯一の資源」という話を聞く。
本書が取り上げた国々に共通する顕著な特徴として、高度人材の育成や社会人のリスキリングを通じて、高付加価値産業への労働移動に力を入れている点を指摘しうる。
「日本の教育水準も高いはず」と思う読者がいるだろう。たしかに、PISAと呼ばれる国際的な学習到達度調査では、日本も国際的に高い水準にある。2022年には世界81カ国・地域が参加するなか日本は総合3位であった。シンガポールとともに世界の最高水準にあり、本書で取り上げた多くの国々を上回る(図表3)。
一方、IMD世界競争力ランキングの教育に関する指標では、一人あたりGDPトップ10の小国が軒並み上位に名を連ねるのに対して、日本は67カ国・地域中31位と評価が低い(図表4)。
この差はどこから来るのか。PISAは15歳児の平均的な読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーを測る調査である。
一方、IMDの教育指標は、PISAの結果に加え、政府の教育支出、大卒者数、留学生の受け入れ・送り出し、外国語能力、さらには経済界のニーズと教育内容との合致度など、様々な観点から社会全体の教育の質を採点したものである。
IMDの教育指標の採点に用いられる19の評価項目のうち、初等中等教育レベルに関するものは5項目にとどまり、その他の14項目は高等教育や成人教育に関するものである。
つまり、PISAが中学卒業時点の教育水準を評価するものであるのに対し、IMDの指標は主に社会人の教育水準を評価している。
日本がPISAで高い結果を出しながらIMDの教育指標で低く評価されているのは、義務教育を終えた段階の子どもたちには高いポテンシャルがありながら、その後の高等教育や就職後の段階では社会人として国際的に高い競争力を身に着けさせる教育を十分にできていないことを意味する。



