チームを支えた中村晃選手のひとこと
このような考え方は、シーズン終盤の緊張感の高い局面でも同じです。首位を守らなければならないリーグ戦終盤の2025年9月。チーム全体が結果や他チームの動向に意識を引っ張られ、守りに入りかけたとき、中村晃選手に、優勝争いを戦い抜くうえで大事な考え方を聞いたことがありました。すると、こう返ってきました。
「こういうときは、結果や他チームの動向に意識を向けてはいけない。自分たちが、毎日ヘトヘトになるまで出し切ること、それだけです」
自分が持っているものを、その日、その場でどれだけ出そうとしたか。「出せたか、出せなかったか」ではなく、出し切ろうとする姿勢を貫くことが大切だと、中村選手は考えていたのです。
この言葉は精神論のように聞こえるかもしれませんが、構造としては先ほどの周東選手の事例と同じです。注意を結果に置かず、その場でどんな姿勢でプレーするかに置いている。だからこそ、状況がどれだけ緊迫しても、注意の戻り先は揺れません。やるべきことは変わらず、今この一球、この一打にすべてを出し切ることだけを考えればいいのですから。
土壇場で「動じない人」の思考法
心理学では、こうした捉え方を、ノンゼロサム思考と呼ぶことがあります。一回一回の出来で善し悪しを判断するのではなく、一つひとつの行動が、次につながる土台として残っていくと捉える考え方です。
こうした言葉を覚える必要はありません。ここでお伝えしたかったのは、専門用語ではなく考え方そのものです。結果がどうであれ、出来がどうであれ、あらかじめ決めた「注意の向け先」に立ち戻り続ける。その姿勢を保てるかどうかが、本番の集中や安定感を大きく左右します。
注意の向け先が定まったら、その注意に戻し続ける。「できたか、できなかったか」を評価するのではなく、「戻ろうとする時間」を少しずつ増やしていけばいいのです。注意は逸れる前提で、あらかじめ定めた戻り先に立ち戻り続ける。この考え方こそが、本番で「動じない」姿を形づくっていくのです。


