自分自身の美の価値観で勝負する

実際の彼女の素顔はまるで可憐な少女のよう。その佇まいは野に咲く花のように楚々としていました。印象的なのは、恵まれた美しい肌をもっていながら、日々のケアに丹念に取り組む姿。穏やかで繊細で、努力家でもある、まさに日本人らしい女性でした。

それがひとたび舞台に躍り出ると、誰にも負けない強烈なオーラを放つのです。比較すれば平面的かもしれないその顔を、誰のものでもない自分の個性としてじっくり見つめ直し、仕立て上げる。そのステップを経たからこそ、ランウェイを歩く姿には自信がみなぎっていて、人はこんなにも輝くものかと驚いたのです。

そこで私が得たものは、美しさを一方向から見るのではなく、まったく別の視点から光を当て、新しい感性や価値観を創造することの素晴らしさでした。西洋とは違う、アジアにはアジアの、そのなかでも日本には日本の美が存在する。それを理解し、打ち出していくことの喜びを味わい尽くしたのです。そこで得たのが「自分自身の美の価値観で勝負する」という矜持です。「自立」という言葉に置き換えられるかもしれませんし、“私基準の美”とも通じるもの。

やはり、「美とは、自分で探し、自分で発見し、自分でつくり上げるもの」。自立を経て手に入れた自信こそが、本物の輝きとなる。私は自分の仕事からその大切さを学んだのです。

「自分自身の美の価値観で勝負してきた」川邉サチコさん。
撮影=奥村康人(NEWS)
「自分自身の美の価値観で勝負してきた」川邉サチコさん。

彼女は「うん、本気」と深くうなずいた

私と彼女とはマネジャーが一緒。それもふたりだけをマネジメントする本木昭子さんの事務所で、モデルとヘアメイクという関係性を超えた姉妹のような間柄でした。

仕事を始めたばかりの小夜子さんは、地味な印象すらある普通の女の子。ただフェイスラインからデコルテまでの美しいライン、小枝のようにすらりと伸びた手足、何よりも透きとおるように美しい肌は、モデルとして大きく羽ばたくポテンシャルを秘めていました。

そんなある日、彼女から真剣な顔で「相談がある」と言われたのです。これから自分は、世界で活躍するインターナショナルなモデルになりたい。でも今のままでは個性が足りない。だから自分のイメージを一緒につくってほしいと。

私は「本気で海外で勝負したいの?」と何度も確認。彼女が「うん、本気」と深くうなずく姿を忘れることができません。

彼女の顔自体に強いキャラクターがあるわけではありません。でも日本人らしい繊細な顔立ちをしています。まず決めたのが肌。その滑らかな質感を生かし、陶器のようなマットな肌に仕立てることにしました。細くて華奢な鼻を生かすべく、アイラインはスッと切れ長に。それに合わせて唇のラインもより鋭角的に。アイメイクが進むにつれて彼女の目つきが変わり、シャープなリップラインが入る頃には、妖気すら漂う東洋のモデルに。ああ、だからこの仕事はおもしろい。人の心まで変えていく力があることを、私はここでも実感します。

ただこのメイクは、細いラインや微妙な角度など、高度なテクニックがあってこそ完成するもの。ていねいに質問と確認を繰り返して確実に自分のものにしていく小夜子さん。彼女はここが人と違うのです。誰よりも努力家であることを私は知っていました。