「日本製」と「中国製」の決定的な違い

では、安価な中国製に対して、日本製の強みとは何か。武典さんは「使ってからわかる違い」だと語る。

日本製のがま口財布は、買った瞬間より「1~3年使ったあと」に違いが出ると言われる。口金の噛み合わせが狂わず、開閉の音と手応えがほとんど変わらない。角のステッチがほつれにくく、布地もフチも大きく崩れない。見た目には似たように映るがま口でも、毎日バッグから出し入れしてはじめて、日本製と海外大量生産品の差がはっきりしてくるケースも少なくない。

実際、海外製の安価な製品は、フレームから布地が抜け落ちてしまったり、噛み合わせが悪くなったりすることが多いという。「パチン」という小気味よい音と、数年使っても緩まない耐久性。これを実現するため、コルバは国内の職人に仕事を回し続け、技術を維持することに全力を注いだ。その結果、海外の市場でも「日本製なら間違いない」という評価を確立するに至ったのだ。

コルバが製造するがま口財布
写真提供=コルバ
コルバが製造するがま口財布

あえて継がせない、異例の親子承継

対外的に「中国に行かない」という逆張り戦略をとった桝本親子だが、実は会社の内部でも、もう一つの「逆張り」を実践していた。異例の事業承継である。

通常、創業者は息子を自社に入社させ、帝王学を授けようとする。しかし、父・禎昭さんの考えは違った。武典さんが30歳で独立を志した際、父は頑なに一線を引くことを宣言した。

自身の会社「桝本商店」に息子を入れることを拒否したのだ。それどころか、皮革を扱う包丁の持ち方ひとつ教えず、仕入れ先も得意先も一切紹介しなかった。

「私は息子を一日たりとも自分の会社で雇ったことはありません」と禎昭さんは断言する。「アパレル以上にこの業界は厳しくなるとわかっていましたから。私に染まったら、古いまま染まってしまう。だから一切教えない。完全にほったらかしました」

1993年、武典さんは父の会社からわずか100m離れた場所に、自身の会社「コルバ」を設立した。武器は、前職の子供服メーカーで培った企画力と、妻・恵子さんのデザインセンスだけだった。当初はどの問屋やメーカーを訪ねても門前払いで相手にされなかったが、この「突き放し」こそが、武典さんを一人前の経営者に鍛え上げた。

父の会社が「勘と経験」に頼る経営だったのに対し、武典さんはゼロから販路を開拓する中で、「完全受注生産」と「在庫を持たない経営」を徹底する近代的な管理手法を身につけていったのだ。

多種多様なパーツに適した作り方で縫い上げていく、商品作りの要
筆者撮影
多種多様なパーツに適した作り方で縫い上げていく、商品作りの要