「NAND専業」状態からの脱却、新領域へ
さらにキオクシアは、市況変動に対して脆弱な「NAND専業」状態からの脱却を図るべく、次世代の新型メモリの開発にも注力している。その一端が伺えるのが、2024年12月の国際学会「IEDM2024」において同社が発表した一連の研究内容だ。
まず挙げられるのが、「ストレージクラスメモリ(SCM)」と呼ばれる新領域への取り組みである。これは、高速だが小容量かつ揮発性・高コストのDRAMと、大容量かつ不揮発性・低コストだが低速なNANDという、性能とコストの乖離が大きい2つのメモリの中間にあたる概念だ。
このSCMを実現する有力候補として、キオクシアが開発を進めるのが「MRAM(磁気抵抗メモリ)」である。MRAMは、電源を切ってもデータが消えない不揮発性と、DRAMに近い高速動作を併せ持つ。IEDM2024においてはその大容量化に向けた技術成果が示されており、既存のメモリ階層に変革をもたらす存在として位置づけられている。
さらにとりわけ注目される研究が、酸化物半導体を用いた新型DRAM「OCTRAM(オクトラム)」の開発である。これは、NAND専業であるキオクシアが、かつて日本企業が撤退したDRAMの領域に、新たな技術アプローチで再参入を試みるものだ。
OCTRAMは材料にシリコンとは異なる「酸化物半導体」を用いることで、リーク電流(電源オフ時の電流の漏れ)を極限まで低減し、既存のシリコン製DRAMと比べて消費電力を大幅に削減できる特性を持つ。さらに、キオクシアがNANDで培った「3次元積層技術」を応用し、メモリセルを垂直に積み上げることで大容量化と低コスト化を同時に実現しようとしている。
もしOCTRAMが実用化されれば、AIサーバーにおいて、プロセッサの直近に配置される大容量・低消費電力メモリとして、既存のDRAMを代替あるいは補完する可能性がある。NAND専業としての知見を活かしたこの独自のアプローチは、日本企業が再びDRAM市場のメインストリームに関与するための一手となり得る重要な取り組みといえるだろう。
「日の丸半導体」は終わっていない
もちろん、今後の道のりにリスクが存在しないわけではない。半導体市場は「シリコンサイクル」と呼ばれる激しい市況変動を繰り返してきた歴史があり、現在の好況が永遠に続く保証はない。
特に現在の状況は、サムスン電子やSKハイニックスなどの競合他社がHBMへリソースを集中させていることによる面が大きいため、今後彼らがNANDへの設備投資を再び積極化させれば、需給バランスが緩和し、価格競争が再燃する可能性も否定できない。
好業績に沸く現在だからこそ、市況の変化に左右されにくい強固な財務体質の構築と、将来の成長機会を逃さないための冷静な経営判断が、これまで以上に求められることになるだろう。
それでもなお、「日の丸半導体の凋落」の象徴として扱われてきたメモリ分野でのキオクシアの躍進は、市場変化の潮流さえ掴めれば、日本企業はグローバル市場で今なお十分に戦える競争力を有しているということの証明に他ならない。
AI推論需要という構造的な追い風を受けながらも自らの抱えるリスクを直視し、次世代技術への投資によって次なる成長シナリオを描こうとする同社の挑戦を、期待とともに見守っていきたい。



