地方官僚は粛清を恐れ機能不全に
過度な粛清は、皮肉な結果を生んでいる。萎縮した官僚たちは責任を負うことを避け、身動きが取れなくなっているのだ。
ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、中国共産党自身がこの事態を認めている。度重なる粛清で多くの官僚が決断力を失い、約1億人の党員の間に無気力感が蔓延しているという。地方の活力なくして経済再生はないと言われるこの時期に、国力への影響は必至だ。
中国共産党の機関紙である人民日報は、「一部の地域は盲目的に流行を追っている」と批判した。半導体、EV、リチウム電池など、党中央が旗を振る分野を、地方は実情を顧みず推進する。処分を恐れるあまり、自ら考えない。中央を真似ておけば、少なくとも咎められはしない。「物事は容易に歪められ、良い教えも捻じ曲げられる」と、党機関紙がそう嘆くほどだ。
鉄壁の習近平体制に走った亀裂
さて、ここで興味深い兆候がある。習近平の絶対的な権力に、亀裂が入り始めているのかもしれない。
外交専門誌ディプロマットが注目するのは、昨年7月の異変だ。習近平氏は、BRICS首脳会議を欠席した。10年以上欠かしたことのない会議である。
同時期、北京では第二次日中戦争の記念式典が開かれ、党幹部が顔を揃えた。だが習近平はここにも姿を見せなかった。単独で別の記念碑を訪れ、献花しただけである。最高指導者が党の主要行事を避ける、異例の状況となった。同誌は、式典を行う党幹部との「対比は鮮明」であり、「習近平は自らを中国共産党の中心部へと押し上げたあの華やかさから、外されているように見えた」と語る。
軍からは不協和音が漏れ始めた。粛清の嵐が吹き荒れる人民解放軍で、粛清された張又侠氏に近い学者たちが集い、解放軍報に論考を寄せている。彼らの主張の核心となるのが、「集団指導体制」「民主集中制」の回復だ。
習近平氏は2024年12月、中国共産党の理論誌『求是』で中央集権的統制の必要性を改めて強調したばかりである。学者たちの論考は、この路線への静かな反論にほかならないと、ディプロマット誌はみる。
制度面でも動きがある。中国共産党は昨年6月30日、党や政府の特定課題を処理する非常設の調整機関である「指導小組」など、非公式組織の決定に中央委員会の事前承認を義務づける新規則を導入した。習近平氏が正規の党機構を迂回し、権力集中の道具としてきた組織だ。新規則は、黙認されてきたその手法に初めてメスを入れた。
台湾侵攻に誰も「待った」をかけられない
軍指導部の混乱は、中国の国内問題に留まらず、台湾海峡の安全保障にも直結する。
ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)中国研究所のスティーブ・ツァン所長はNBCニュースに対し、警鐘を鳴らした。
ツァン氏は張又侠氏について、1979年の中越戦争で実戦を経験した最古参の高級指揮官だと指摘。この将軍が排除されれば、習近平氏が台湾への軍事行動を検討する際、慎重論を進言できる者がいなくなるという。
「人民解放軍は今、台湾を解放する準備ができているか」と習氏が問うても、異を唱える者はもういない。ツァン所長はそう分析し、「世界はより安全でなくなった」と警告した。

