自分の中のかなしみに意識を向ける
仕事が終わり、緊張感がほぐれて一杯飲むときというのは、人はだれもが隙だらけになります。鎧を脱ぎ捨てた裸状態です。そういうときにこそ、本質は現われるものです。
人間の本質は「明るく前向き」ではなく「かなしみ」だと私が悟った瞬間でした。
以来、私は患者さんに対してだけでなく、自分自身のかなしみにも目を向けるようになりました。
楽しいことばかりではなくかなしいこと、つらいこと、苦しいこととも向き合って、傷ついている自分がいれば、それに寄り添う。
親しい人が亡くなってかなしい思いもしました。私はお酒を飲むときこそ、彼らのことを思い出す貴重な時間にしています。講演で地方に行き、東京に帰る新幹線や飛行機の出発を待つ間、軽く飲める場所を見つけて一人でビールジョッキを傾けます。
このとき、自分の中のかなしみに意識を向けます。あちらの世界に先に行っている人たちと一緒に飲むのです。
「明るく前向き」がいいと思っていたときとは比べ物にならないくらい、こころに安らぎが満ちてきます。かなしいのに、そのうちにまた会えるからという喜びも膨らんできます。
この不思議な感覚が好きで、私は一人でしみじみと飲むのです。


