人民元を基軸通貨は現実的ではない

【河野】現在、国境をまたぐ世界の多くの商取引や金融取引はドルで行われており、各国はドルを外貨準備として保有する必要があります。

しかし、もし中国をはじめとする各国が「互いの通貨を外貨準備として持ち合う」という合意をすれば、ドルの重要性は低下し、各国は外貨準備として保有するドル国債などのドル建て資産を売却することも、理論上は可能になります。

ただ、万が一、中国が人民元を国際通貨にしようとした場合、問題になるのが、「キャピタルフライト(資本逃避)」です。

権威主義国家の中国が金融システムを便利にしすぎると、中国国民が資金を海外に逃避させ、それが中国経済の安定性を損なう可能性があるため、中国は、現段階ではそういった方向に一気に舵を切れません。

そのため人民元を、ドルのように自由に使える基軸通貨にするのは難しいのが現状です。

【唐鎌】実際、これだけ西側陣営と対峙しながら、中国はドル決済圏である「SWIFT(国際送金のための通信ネットワーク)」から抜けていませんよね。ドル決済圏に所属していることのメリットも理解しているのだと察します。

米ドル紙幣と中国元紙幣
写真=iStock.com/Dilok Klaisataporn
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ケインズが提案した共通通貨

【河野】私もそう思います。そもそも新たな国際通貨制度への移行には、長い年月を要します。ただ、中国主導の国際金融システムを作る方策がまったくないわけではありません。

歴史を振り返ると、現在の国際金融システムは、第二次世界大戦が終結する前年の1944年に、アメリカのニューハンプシャー州のブレトン・ウッズという保養地で作られました。

だから、ブレトン・ウッズ体制と呼ばれていて、このときIMFや世界銀行の創設が決められたわけですが、その仕組みは、アメリカのハリー・デクスター・ホワイトという財務次官補と、イギリス側の代表だった経済学者のジョン・メイナード・ケインズが中心となって設計したものです。

当時、イギリスは基軸通貨の座をアメリカに奪われまいと抵抗しましたが、結局、米ドルが中心の体制になりました。もちろん、ポンドが基軸通貨でなくなるのは、もともと不可避だったのですが、代わってアメリカが特権を手にするのを避けるため、ケインズは「バンコール」という仮想の国際決済通貨制度の導入を提案しました。

アメリカの反対で実現しませんでしたが、この「バンコール」というのが、アメリカの「途方もない特権」を抑える鍵になるかもしれません。

こうした背景を踏まえると、中国が、新たな国際金融システムとして「人民元を基軸通貨にしようとする」のではなく、「ケインズが提案したバンコールのような共通通貨を導入しよう」と打ち出すことも、一つの戦略になり得るのです。

【唐鎌】なるほど。必ずしも人民元を足掛かりにしないことで「自国のことばかり考えているわけではない」というアピールにもなりそうですし、一つの可能性として面白いですね。