購入することで得るインセンティブ
初期の頃にハイブリッドカーを購入することを選んだ消費者は、自分が環境に配慮しており、環境への貢献のためにはお金を多めに払うことを厭わない人間であるということを周りにはっきりと示せた。そうでないなら、なぜ快適さや安全性を犠牲にしてまでハイブリッドカーを買うのだろうか。教育への投資と同様、ハイブリッドカーのコストはその価値に対して高かった。一方で、その主なメリットは環境への貢献だった。
プリウスの購入を選択することで、消費者は自分が環境のためにお金や快適性を犠牲にしても構わない人間であることを自分自身と世界に表明できた。初期のハイブリッドカーを購入するインセンティブを、図表1のゲーム木に示す。
現在では、プリウスを買うことがこの種のシグナルを発信することはない。少なくとも、それは初期のハイブリッドカーを買ったときのような強いシグナルではなくなった。
プリウスは現在、非ハイブリッドカー市場でも競争力のある車種になっており、特に環境志向ではない顧客にとっても望ましいとみなされるほどの総合的なメリットを提供している。
「性能の劣る車」を喜んで買う市場
たとえば、Uberのドライバーは、プリウスは燃料費を節約できるだけではなく、快適性や信頼性も高いと考えるだろう。そのため、今日の消費者は、環境をそれほど気にしていなくても、プリウスを購入するかもしれない。
今では、プリウスを購入する際に安全性と快適性を犠牲にする必要がなくなった。そのため、プリウスのこうした他の新しい利点によって、この車を買うことによって発信される“環境意識の高さ”というシグナルの力は弱まった。
この話が腑に落ちないというのなら、テスラの車を買うことによって発信されるシグナルについて考えてみればいい。消費者は、環境のためにテスラ車を買っているだろうか?
このように、初期のハイブリッドカーは品質が劣っていたにもかかわらず、消費者にとっては、自らの環境問題への姿勢を信頼できる形で周囲に示すことができたため、強い購入動機が生まれた。そして、この主張をするためだけにこの性能の劣る車を喜んで買おうとする人がたくさんいたため、それに便乗し、活用する市場が生まれたのである。
前述のように、プリウスはハイブリッドカー市場で長年にわたってトヨタを優位に立たせた。トヨタがやってホンダがやらなかったことは何なのだろうか?

