働くことで心身の健康を保つ

何でも完璧にやろうとすると、自分にできないことは避けたくなり、外出もおっくうになる。しかし年齢を重ねるほど、できないことが増えると思っておけば、いままでと同じことができただけで達成感が得られる。

私自身、会社に出勤することが一番の健康法だし、仕事で脳に刺激を与えれば認知症予防になると考えている。朝の身支度におけるルーティンは30個ほどあって、順番に思い出すだけでも頭を使う。同じ手順を守ることで、抜けや漏れを防ぐこともできる。

会社に着くと、あれこれと打ち合わせが入り、スタッフやお客さまとメールでやりとりする。電車通勤だから自宅と駅、職場と駅の往復で歩くのは適度な運動になる。おかげで食欲はさほど衰えないし、夜はぐっすり眠れる。健康的な生活習慣が維持できている。

働くことで心身の健康を保てれば、家族に介護などで迷惑をかけることも少ないだろう。認知症は誰もがなり得る病気だ。認知機能の維持に効く可能性があることは、できるだけ何でもやっておきたい。予防の一助になるとわかっていれば、働かない手はないだろう。

横断歩道を歩くシニアビジネスマン
写真=iStock.com/Jacob Wackerhausen
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介護はしても、されてもいけない

長く生きれば、老化は誰にでも訪れる。体力が落ち、できることが減っていく現実からは逃げられない。しかし「できないこと」を数えるより、「自分にまだできること」を維持するほうが、結果として家族に迷惑をかけずにすむ。

働くことはそのための大切な習慣でもある。

晩年の父は足腰が弱り、車椅子生活を経て寝たきりになった。病気は不可抗力だとしても、もし毎日きちんと外出していれば、もう少し長く自分の足で歩けたのではないか――そんな思いがいまも残っている。

父は外科医だった。母が他界したあと、「手術ができないなら医者を続けるべきではない」と考え、60代になったばかりで自ら退職した。しばらくは釣りや盆栽を楽しんでいたが、次第に家にいる時間が長くなり、横になる時間も増えていった。

90歳まで働いてきて痛感するのは、「定年までは人生の前半戦に過ぎない」ということだ。前半戦は競争が基準になる。スピードや成果が求められ、決められたレールの上をひたすら走る。しかし、後半戦はまったく違う。体力も環境も千差万別で、誰かと比べても意味がない。自分で決め、自分のペースで進むしかない世界だ。そこには、ほどよい気楽さがある。