宮内省「皇族の参政権には触れるな」

実際、昭和22(1947)年4月25日の総選挙時には、皇族にも参政権があるとみなした内務省が、天皇・皇后を除く成年皇族33名に投票所入場券を送付している。

ただし、当時はまだ辛うじて大日本帝国憲法下であったために、皇室は先述のように「国民とは別のもの」だと考えられていた。それゆえにこの時は、参政権はないと主張する宮内省の指示によって全皇族が投票を棄権している。

当時の皇族である賀陽宮恒憲王曰く、「宮内省の方針としてこのことに触れるなということであります」。

現在の皇族は戸籍を持たないから投票ができない

井手氏らの補足として、憲法改正担当の国務大臣(第1次吉田茂内閣)を務めた金森徳次郎氏の文章を紹介しよう。金森氏は、象徴天皇は参政権をお持ちになるべきではないとしつつ、次のようにも述べている。

「勿論皇室の中でも、他の方々は選挙権被選挙権を持たるることが理の当然であつて、たとえば皇后皇太后も選挙権、被選挙権を持たるるようになるのが正しい行き道であろう。この考え方は、従来の伝統と比べると、かなり新し過ぎることかもしれないが、しかし現在はもうかくの如き新しさを不思議には思わないであろう」――『憲法随想』(美和書房、昭和22年)63頁。

日本国憲法はけっして皇族の参政権を否定しているわけではない。その証拠の一つとして、昭和22年2月成立の参議院議員選挙法は、附則第2条において皇族も「選挙権を有する」と明示していた。

現在認められていないのはあくまでも法律上の制約であり、公職選挙法の「戸籍法の適用を受けない者の選挙権及び被選挙権は、当分の間、停止する」という附則が適用されているにすぎないのである。なお、この附則については、憲法作成に携わった法制官僚の佐藤達夫氏が、次のように評している。

「選挙権が『当分の間』停止されるというのもおかしいし、そもそもこの附則の規定は、平和条約発効前における朝鮮人・台湾人(それらは当時まだ法律的には日本人であり、そして従来戸籍法の適用を受けていなかった)を対象としてのもので、天皇や皇族のことなどは全然、考えていなかった」――雅粒社 編『時の法令』第305号(朝陽会、1959年)22頁。

筆者は「皇室にも参政権を認めることは当然だ」とまで主張するつもりはない。しかし、ヨーロッパの現状を考慮するに、とりわけ傍系皇族である王・女王あたりについては、認めるかどうかを再検討してもよいのではないかと思う。