1票を投じるロイヤルたち

参政権を有する欧州王室の方々はみな、政治的中立性のためにその権利を行使していないのだろうか。調べてみるとそんなこともないようだ。

1973年のユリアナ女王の肖像画
1973年のユリアナ女王の肖像画(写真=Max Koot/CC-Zero/Wikimedia Commons

すでに触れたオランダ王室では、現国王の祖母にあたるユリアナ女王(在位:1948年~1980年)は退位後に投票したことがあり、現代でもコンスタンティン王弟とその妻ローレンティン妃は、いつも投票所に足を運んでいるという。

また、義務投票制を採っているベルギーでは、王室のメンバーも市民として投票せねばならない。憲法上「いかなる行為も大臣による副署がなければ効力を有しない」とされる国王(※ベルギー王国憲法第106条)のみは、秘密投票が不可能ゆえに免除されるが、退位すれば再び義務を課せられるそうだ。

そのベルギーの隣国であるルクセンブルクでも、大公を除く大公一族は票を投じることができる。興味深いことに2004年12月には、当時の大公アンリがクリスマス演説の中で、自らも「欧州憲法」批准の是非を問う国民投票に参加したいと訴えている。

このアンリ大公の願いは叶わなかったが、君主でありながら投票権を行使した方は実際にいる。前スペイン国王フアン・カルロス1世がそうだ。国政選挙には参加しないようにしているスペイン王室だが、国民投票には国王までもが参加してきたのである。

前スペイン国王フアン・カルロス1世
前スペイン国王フアン・カルロス1世(写真=State Chancellery of Latvia/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

「国王陛下と王妃陛下は、欧州憲法制定条約に関する国民投票において、投票権を行使なさいました」(スペイン王室公式webサイト、2004年2月20日)

このように市民として政治参加する王室の在り方は、象徴天皇制に慣れた現代日本人の目にはかなり衝撃的なものとして映ることだろう。

皇族に「参政権」が認められる可能性はあった

ここまで欧州王室の事情について述べたが、実は日本皇室も参政権を認められる可能性が大いにあった。

日本国憲法公布を目前に控えた昭和21(1946)年10月25日、GHQ民政局のサイラス・ピーク博士が、法制局第一部長の井手成三氏らに「現在皇族は選挙権及び被選挙権を有せられるか」と質問した。

これに対して日本側は「現在は選挙権も被選挙権も有せられない。それは皇族は国民とは別のものであるといふ観念から来て居る」と返答したうえで、次のようにも説明しているのである。

「なほ新憲法の下においては、皇族は両方ともこれを有せられる次第であつて、政治的活動をするために皇族の身分を離れる要はないことになる」

なんと、投票権にとどまらず、選挙に出馬する権利さえ公然と認めようとしていたのである。東久邇宮稔彦王による終戦処理内閣が記憶に新しかったがゆえに、皇族の政治参加を想像しやすかったのだろうか。