あの人の「簡単だよ」は信用できない

スキーの話です。

Aさん:「あそこのゲレンデ、チョー面白いよ」

Bさん:「えっ、でも僕には難しいんじゃないかな」

Aさん:「いや、簡単、簡単」

その言葉を真に受けて出かけた初心者のBさんは、死にそうな思いをしました。上級者のAさんには、きっと簡単で面白かったのでしょうが……。

また、次のような話もあります。彼氏と別れて寂しそうにしているAさんを心配して、同僚のBさんが声を掛けました。

Bさん:「そろそろ気分を変えて、新しい人と付き合ってみたら?」

Aさん:「うん。でも、そんな出会いもないし、マッチングアプリもちょっと……」

Bさん:「じゃあ、私が紹介しようか。実は知り合いに素敵な人がいるのよ。あなた絶対、気に入るわよ」

Aさん:「ほんと? そんな人がいるの?」

ウキウキした気分のAさんは、久しぶりに思い切りおしゃれをして待ち合わせの場所へ。ところが、待ち合わせ時刻を15分過ぎても、彼は現れません。

不安になったAさんが彼のスマホにメールすると、「ゆうべ飲み過ぎて寝坊したんだ。すぐ行きます」とのこと。その30分後にようやく現れた彼の、しまりのない顔とボサボサ頭にビーチサンダルばきの姿に、Aさんは唖然としてつぶやきます。

「Bさんの言う素敵な人って、いったい何なのよ⁉」

「面白い」「簡単」「素敵な」といった主観的な表現ほど、当てにならないものはありません。相手がウソをついたわけではないとしても、人の主観はまちまちだということです。こうした多義的表現や専門的表現、主観的表現などの意味の取り違えを意味論的誤解と呼ぶことができます。

「行けたら行く」で信用を失う

上司抜きの同期のメンバーとの飲み会は、あまり気を遣うこともなく、一般には気楽に楽しめるものです。

しかしここでも、幹事さんが意図の解釈に迷う場合があります。

それは、誘いに対する「行けたら行く」という返事。これは、もしかすると「乗り気ではない」「本当は行きたくない」という間接的な拒否なのか。それとも、「本当は行きたいんだけど、ちょっと用事もあり、今のところ、どうなるかわからない」という意味なのか。

三宮真智子『なぜ、あなたの話し方は誤解されるのか』(大和書房)
三宮真智子『なぜ、あなたの話し方は誤解されるのか』(大和書房)

誘いや依頼を直接的な表現でズバリと断るのは、相手の気分を害したり、人間関係をギクシャクさせたりすることになりがちです。そのため、大人どうしの会話では間接的拒否の表現が多く用いられます。しかしながら、これがまた、誤解の原因になりやすいのですね。

何かを打診されて、「考えておきます」と答えることもよくあるのですが、多くの場合、間接的に断っている拒否の言葉として解釈されます。ですが、本当に考えてから返事をしたいという意味で使われることもあるので、言われた相手は判断に迷います。

「また今度」という返事も、言葉通りに受け取ってよいものか、それとも「もう誘わないで」と解釈すべきか、相手を迷わせる要素があります。間接的拒否の表現は、真意を測りかねるため、何かとやっかいなものですね。

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