専門用語のすれ違い

一般の人と専門家との間で、言葉の使い方や解釈が違っている場合があります。

たとえば、冬場にヒートショックという語でよく見かける「ショック」という言葉。医学的には、「血圧が下がり生命の危険がある状態」を指す言葉だそうです。でも、一般の私たちは、「驚き」「衝撃」といった意味合いで用いることが多いものです。

患者に説明をする医師
写真=iStock.com/kazuma seki
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医学関連でさらに例を挙げると、「頓服」という言葉。これは、医学的には「症状が出た時に薬を飲むこと」を指しますが、一般には、「包装紙に包んだ薬」を頓服と言うことが多いようです。

実際、私の両親も、昔「包装紙に包んだ薬」の意味で使っていました。また、薬を飲むタイミングについて「食間に服用」というものがありますが、この「食間」は食事と食事の間(食後約2時間程度)を意味します。

ところが、食事の間つまり食事中に飲むものだと思い込んでいる人が少なからずいるようです。

他にも、たとえば、「命題」という言葉がありますが、これは、論理学、心理学、数学などでは、「AはBである」(たとえば、「ソクラテスは人間である」)といった形で表される文であり、真か偽か(それが正しいか否か)を判断することができるものを指します。

ところが、日常的な用法では、達成しなければならない最重要課題を「至上命題」と呼んだりするわけです。これは、厳密には誤用だとされていますが、かなり広く用いられている表現ですね。

ビジネス語の誤解

その他にも、ビジネス界では、「この事業は、高い収益が期待できる」といった予想を「仮説」と呼ぶことがあります。将来のことに限らず、現在や過去のことについても、「おそらく、こうだろう」というものを仮説と呼ぶ場合があります。

しかしながら、研究における仮説は、「ある現象を統一的に説明するために、仮に立てた説」を意味します。また、検証可能な説(実際に調べて証拠立てることができる説)だけに限定して用いられる場合も多いものです。

なお、本書に後から出てくる「トップダウン」という言葉も、通常の用い方とは少し違います。

職場でトップダウンといえば上意下達、すなわち上層部が決めたことに従業員が従うという意思決定法を指しますが、心理学では、個人が予想や期待に基づいて情報を処理することをトップダウン型情報処理と呼びます。

こうした言葉がある特定の文脈の中で使われる分には問題がないのですが、ひとたびその文脈を離れると混乱をきたす場合があります。たとえば心理学者が、心理学の授業ではなくビジネス研修の場で「トップダウン」という言葉を使えば、「上意下達」の意味だと受け取られるでしょう。