私の顧客をはじめ、年収1億円に達した人たちを見ていると、1億円を稼げるようになるまでには、いくつかの分岐点がある。
そのひとつが、年収2000万円から3000万円にかけてだ。
このあたりの額を稼げるようになると、1日に数万円ほどの小遣いを使えるようになる。毎日、一流レストランで食事をするといった贅沢も可能だ。
すると、これ以上稼がなくても、いまのままでいいのではないかという気持ちが生まれてくる。現状に満足して、事業をはじめたころに抱いた志やハングリー精神を失いそうになる。そればかりでなく、周囲からの誘惑も増える。
実際、私の経験でも、年収2000万円を超えたあたりから、急にそれまでとは違う人たちが寄ってくるようになった。だが、たとえば水商売の女性が近づいてきたとしても、それは江上治が素敵だからではなく、店に頻繁に通ってくれたり、高級な酒のボトルを入れてくれたりするからだ。
そこで自分を見失い、誘惑に負けると、あとは衰退の道が待ち受けている。
もうひとつの分岐点は、本業が一応の成果を収めたときだ。
たとえば、これまで見たなかでは、調子に乗って多角化をはじめるケースがある。
私の元顧客に、Mさんという経営者がいる。Mさんは人材派遣ビジネスで成功し、創業4年で年商100億円、年収2億7000万円を稼ぐまでになった。
ところが、そこで魔がさした。本業以外でミャンマーに進出するというギャンブルのような事業をはじめてしまったのだ。
結局、信頼していた部下の裏切りも重なって、本業もろとも会社を破綻させてしまった。
だが、Mさんほどの能力があれば、その気になれば再起も可能だ。原点に立ち戻って、また人材派遣ビジネスをはじめればいいのだ。私はそう見ていた。
しかしMさんはそうしなかった。