ロシアの軍事企業に異変が起きている。低価格・短納期の部品作りを強要され、経営は行き詰まり、税金や給与の未払いが相次いでいるという。海外メディアは、全土の賃金の未払い件数が4倍に急増し、ロシアの軍需産業に限界が来ていると報じる――。
2026年1月23日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、ロシア・モスクワ州ドルゴプルードヌイにあるモスクワ物理工科大学(MIPT)を訪問し、学生や卒業生と面会した
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
2026年1月23日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、ロシア・モスクワ州ドルゴプルードヌイにあるモスクワ物理工科大学(MIPT)を訪問し、学生や卒業生と面会した

赤の広場で焼身を図った企業トップ

2024年7月26日、モスクワの赤の広場。一人の老人が体にガソリンを浴び、自ら火をつけた。ロシア政府と目と鼻の先、ソ連建国の父レーニンの廟のすぐそばでの焼身自殺未遂だった。

男性の名はウラジーミル・アルセニエフ、75歳。モスクワの軍需企業ボルナを率いる科学者だ。戦車兵用の通信機器の部品を製造している。重度のやけどを負いながらも一命を取り留めた同氏は昨年12月、入院先からロイターの取材に応じ、自らを追い詰めたロシア経済の実態を初めて公に語った。

2022年、ロシアがウクライナへの全面侵攻に踏み切ると、アルセニエフ氏の会社には国防省から注文が殺到したという。一見すれば願ってもない商機だ。しかしそれは「毒の杯」だったと同氏は振り返る。求められたのは猛烈なペースでの増産と、極めて短い納期の厳守。しかも価格はロシア国防省が一方的に決める。

無理な要求に耐えきれなかった。2023年春ごろになると、同社の生産スケジュールに遅れが出始めた。同年9月、追い打ちをかけるように国防省から通告が届く。部品の購入額をほぼ半分に減らすという内容だった。生産工程の自動化が進んでコストが下がったはずだ、というのが理由だが、戦費の圧縮を目論んでの通達だったことは明白だ。会社の口座は税金の滞納を理由に凍結され、従業員への給与も払えなくなった。

焼身自殺未遂の後も、同氏はやけどの治療を受けながら会社の問題解決に奔走した。だが、成果はほとんど得られなかった。会社は今も何とか存続しているものの、規模の縮小を余儀なくされ、受注も大幅に減った。アルセニエフ氏は職場に復帰したが、その時間の多くは裁判所への出廷に費やされている。給料の未払いに加え、無許可のデモ行為に罰を下されたためだ。