「国家戦略技術」6分野は何を変えるのか
AIとロボティクスは、もはや“人手不足対策”ではなく、社会の基盤そのものになっている。介護施設ではロボットが利用者の移動や食事をサポートし、職員は人間にしかできない寄り添いのケアに集中する。建設現場では自動化とロボット導入が加速しており、重労働や危険作業の一部を機械が担いはじめている。物流現場ではAIが需要を予測し、在庫は必要最小限で維持されるようになっている。
量子暗号通信は、国家の“目に見えない安全保障”の要として機能しつつある。行政データは量子暗号によって保護され、重要インフラはサイバー攻撃に強い耐性を獲得しはじめている。災害発生時には、自治体のクラウドが量子暗号ネットワークで安全に連携し、AIが最適な救援ルートを瞬時に導き出す社会が近づいている。
宇宙は、もはやロマンではなく日本社会の“神経系”である。独自の衛星コンステレーションは地震の前兆や気象の急変を常時監視し、人々の生活リスクを可視化する。離島や山間地への輸送の多くは軌道輸送とドローンが担い、安全保障では宇宙監視網が領域警備の常識を変える。
半導体は、世界中のロボット・自動車・医療機器の“感覚器”を担う。日本は最先端ロジック競争ではなく、装置・材料・回路設計の三位一体で独自の勝ち筋を確立し、世界の半導体エコシステムを支える存在に戻る。
核融合と水素は、国家の自立性を支える最後のピースである。国産エネルギー比率が飛躍的に高まり、地政学リスクによって揺さぶられない国家が成立する。
日本が再び力を取り戻すために
このように、未来国家の姿とは、技術が国家の周りを飾るのではなく、技術が国家の骨格を形づくり、社会のすみずみまで具体的効果をもたらす国家である。
若者は挑戦が評価される国家に戻り、失敗しても立ち上がれる社会構造ができあがる。
研究と起業、産業と政府、学術と防衛が、分断ではなく循環として機能する国家――これこそが国家戦略技術が導く“未来の日本の姿”である。
未来は、偶然にはやって来ない。未来は、創造的破壊によってつくられる。
日本は今こそ、自らの手で未来の国家OSを書き換えるべきである。国家の創造的破壊――それこそが日本の未来を開く唯一の鍵である。
日本が国家戦略技術に挑むということは、単に未来を創るという意味ではない。もし創造的破壊を国家として実行できなければ、未来は自然と閉じていく。国家の衰退は大声で崩れるのではなく、静かに進行する。挑戦が減り、破壊がためらわれ、制度が変わらず、挑戦が価値に変換されない。技術は存在するが国力にはつながらない――。そうした“静かな衰退”こそ、日本が最も避けなければならない未来である。
未来は挑戦をやめた国家に味方しない。
そして未来は、破壊をためらった国家に二度目のチャンスを与えない。
日本の未来は、今まさにこの分岐点に置かれている。
日本は技術を持つ国から、技術で未来をつくる国家へ。そのために必要なのは、創造ではなく、破壊の覚悟である。

