「1980年代の成功モデル」に依存したまま
第2章:未来と現在を隔てる“国家の裂け目”――日本はなぜ未来へ進めないのか
国家戦略技術が前に進まない日本。その核心にあるのが、「未来の国家像」と「いまの国家構造」の衝突によって生じる“深いギャップ(国家の裂け目)”である。
これは単なる制度の不備ではない。国家そのものが、自分の内部に“相容れない二つの国家”を同時に抱えている状態である。
以下、この裂け目の正体を描き出す。
① 未来の技術構造vs.過去の収益モデル
日本は未来をAI・量子・宇宙・半導体で構築しようとしている。しかし国家財政と企業収益の大部分は、自動車、機械、化学、中間財といった“1980年代の成功モデル”に依存している。未来へアクセルを踏みながら、同時に過去へブレーキを踏んでいる。これが最初の裂け目である。
② 技術の進む速度vs.国家の動く速度
AIは日次で進化し、量子は月次で研究が進展し、宇宙ビジネスは年単位で桁違いのシステムが生まれる。しかし行政は年度ごと、企業は根回しごとに動く。速度差は100倍以上。未来はすぐそこにあるのに、国家はそこへ届かない。これが第二の裂け目である。
③ 世界市場での競争vs.国内基準の文化
国家戦略技術は世界市場が前提であるにもかかわらず、日本は“国内ユーザー基準”で仕様や構造を考える。世界が求めるスピード・価格・標準・安全性――そのいずれもが日本の意思決定文化とはかけ離れている。
④ デュアルユースが世界標準vs.防衛忌避が日本の通念
前回記事で取り上げたように、AIも量子も宇宙も半導体も、世界では完全に軍民両用である。しかし日本では、「防衛との一体化」を避ける空気が根強い。国家戦略技術の先端領域は、安全保障と不可分である。しかし日本のOSはそこを避けるよう設計されている(参照〈世界の軍需企業大手100社の防衛売上は「98兆円」…日本人だけ認識がズレている巨大市場の正体〉)
⑤ 10年投資でしか育たない技術vs.1年予算で動く国家
量子も核融合も半導体もAI基盤も、回収まで10年かかる。しかし日本の国家予算は“1年間で使い切る文化”で動く。未来を10年スパンで育てるべき国家が、現在を1年スパンでしか管理できない。これが最も危険な裂け目である。
これらの“国家の裂け目”を埋めずにいくら国家戦略技術を進めても、未来へ進む力は国家内部で消失してしまう。
では、この裂け目をどう塞ぎ、どう未来へ進むのか。その答えが次章の創造λ・破壊・成長γ・制度OSである。

