「4つのエンジン」で日本は再起動する

第3章:創造λ・破壊・成長γ・制度OS――国家を動かす4つの巨大エンジン

日本が未来へ進めない最大の理由は、技術の不足ではない。国家を前へ押し出すべき4つのエンジンが、同時に回転していないからである。

この章で論じるのは、国家戦略技術を単なる「政策の集合」ではなく、国家を動かすメカニズムとして捉え直すための“国家機構論”である。国家はどのように未来へ進むのか。答えは、この4つが同期した瞬間に現れる。

国家を未来へ動かす4つのエンジン――創造λ・破壊・成長γ・制度OS――の中で、実は「破壊」こそが全体を動かす最重要エンジンである。

「エンジンスタート」と書かれたボタンを押す指
写真=iStock.com/Ake Ngiamsanguan
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その理由は三つある。

第一に、破壊は創造の前提である。創造は、空白から生まれるものではない。古い前提・古い制度・古い価値観・古い構造――これらが国家の内部を塞いだままでは、どれほどAIを育てても、量子を研究しても、宇宙を開発しても、新しいエネルギーが流れ込む“空間”が存在しない。創造が芽を出すには、まずその芽を押し潰す土壌を崩す必要がある。破壊は、創造が宿るための“スペースをつくる行為”である。

第二に、破壊は国家の行動を解放する。国家は多くの場合、“やるべきこと”ではなく“やめるべきこと”によって前に進む。惰性で続く制度、守られ続けた既得権、手放されない過去、これらが国家の進路を塞ぐ「見えない重り」として機能する。破壊とは、この重りを外す行為であり、国家を未来に向かって再び動けるようにする“解放プロセス”である。破壊がない国家は、アクセルを踏んでもブレーキが踏まれたままの状態だ。

最重要なのは、成長でも改革でもない

第三に、破壊は国家の方向性を決める唯一の行為である。創造λは挑戦の量を増やし、成長γは価値の増幅を促し、制度OSは循環を維持する。しかし、それらがいくら整備されても

「国家として何を終わらせるのか」が決まっていなければ、日本は未来に進めない。国家戦略技術において最も危険なのは、“未来を掲げながら、過去の構造を一つも終わらせない”ことである。破壊は、国家がどの未来へ進むのかを決定づける、唯一の「選択の行為」である。

だからこそ今回のテーマ、「国家戦略技術×創造的破壊」においては特に破壊が最重要になる。なぜなら、日本が抱える最大の問題は“技術がないこと”ではなく、技術を動かす国家構造が、未来に適応できないまま固定していることだからだ。

創造を語りたい国家は多い。成長を望む国家も多い。制度改革を叫ぶ国家も多い。しかし、「壊すべきものを壊す」と宣言できる国家だけが未来をつくる。

破壊とは、国家が未来へ進むための“ゼロ地点”であり、国家戦略技術の全プロセスを解き放つ最初のエンジンなのである。

以上の認識のもとで4つのエンジンを論じていく。