アメリカは日本の同盟国であり、日本外交の要となっている。戦史・紛争史研究家の山崎雅弘さんは「日本とアメリカはほんの80年前まで戦場で殺し合う関係にあった。日本の政治家は『日米関係は揺るぎない』と言うが、現実を表した言葉ではない」という――。

※本稿は、山崎雅弘『日米軍事近現代史 黒船来航から日米同盟まで』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

令和7年10月28日、日米首脳会談
令和7年10月28日、日米首脳会談(写真=首相官邸ホームページより)

日本とアメリカの関係は「揺るぎない」?

日本国の総理大臣がアメリカ合衆国との二国間関係について言及する時、「揺るぎない日米同盟」という威勢のいい言葉がしばしば使われる。

例えば、石破茂首相(当時)は2024年11月15日、ジョー・バイデン米大統領(同)との日米首脳会談後に行った記者会見で、「揺るぎない日米同盟を、今後も更に発展させ、更に緊密に連携していくということで、一致をみたものであります」と述べた。

この言葉を報じる新聞やテレビも、特に疑問を差し挟むことなく無批判に伝達する。

日々、こうした光景を見せられる日本国民は、日米同盟とは日本が近代国家になってからずっと続いている「不変的な友好関係」であるかのように、錯覚しそうになる。

だが、日米同盟という二国間の関係は、今後も「揺るぎない」と言えるのか?

80年前は「戦勝国」と「敗戦国」だった

近現代史をひもとけば、日本とアメリカの同盟関係の歴史は、それほど長いとは言えない。例えば、アメリカとその元宗主国であるイギリスの政治と軍事の同盟関係は、第一次世界大戦(1914〜18年)へのアメリカの参戦(1917年)から数えても100年以上の歴史があり、共に元イギリスの植民地だったアメリカとカナダ、アメリカとオーストラリア、アメリカとニュージーランドの同盟関係も、日米同盟よりは長い。

これらの国々は、長らくキリスト教プロテスタントの白人が政治の実権を握っていたこともあり、軍事同盟の結びつきはきわめて強固で、政府の諜報機関が軍事を含む外国の機密情報を共有する特別な関係(通称「ファイブ・アイズ」)を構築している。

そして、アメリカとイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの同盟関係は、各国が対等な主体として築き上げてきたものである。

一方、日本とアメリカの現在の同盟関係は、始まりからして、これらの5カ国の関係とは大きく異なっている。第二次世界大戦の「戦勝国」であるアメリカが、「敗戦国」日本を自国に都合のいい形で従えるという、いわば「主従関係」を基礎としている。