マルチタスクが苦手な日本人の“大失敗”

複数の周辺国との力学を平面上で読み解くという「面で捉える思考」を、日本の政府や軍上層部は苦手としていた。パソコンの用語で言うなら、徳川幕府も大日本帝国政府も、対外戦争を個別の「シングルタスク」という形で直列的に処理し、同時並行的に複数の国との利害調整を行いながら対処するという「マルチタスク」の能力は著しく弱かった。

その典型が、日中戦争を「日本対中国という二点の図式に留まらない、間接的な対英米戦」と理解することに失敗し、対英関係や対米関係の悪化という副次的影響を軽視したまま対中戦争をずるずると泥沼化させ、最終的にアメリカの「対日石油禁輸」(1941年8月1日)という決定的な出来事を引き起こすに至った一連の流れだった。

すでにヨーロッパで侵略行動を開始していたドイツおよびイタリアとの軍事同盟への参加(1940年)や、当時フランスの植民地だったベトナム(仏領インドシナ)の北部と南部への進駐(1940〜41年)も、それがイギリスおよびアメリカへの敵対行動に当たるという認識が薄く、新たな世界大戦で一方の陣営に身を置いた自覚も薄かった。

対するアメリカでは、幕末における日本との条約交渉から現在に至るまで、日本との関係は個別の二国間問題に留まらない、同国の世界戦略の一環と位置づけられ、「点と線」ではなく「面で捉える思考」で検討と具現化がなされてきたと言える。

トランプを相手に日本はどうしたらいいのか

つまり、我々が単純に「日米同盟」と呼ぶ日本とアメリカの二国間関係は、双方で思考のスケールや視座の高さが異なる、非対称な形をなしているのである。

山崎雅弘『日米軍事近現代史 黒船来航から日米同盟まで』(朝日新書)
山崎雅弘『日米軍事近現代史 黒船来航から日米同盟まで』(朝日新書)

本書は、このような思考形態の違いに留意しながら、ペリーの黒船来航から第二次世界大戦期の直接対決を経て現在に至る172年間の日米関係の歴史について、主に軍事と安全保障政策の観点から振り返るものである。

2025年1月20日にアメリカで第2期トランプ政権が発足し、同年10月21日に高市早苗が日本の内閣総理大臣に就任したあと、日米の同盟関係とアメリカ軍・自衛隊の協力関係も、新たな時代に入りつつある。

これからの日米関係は、どのような方向に進んでいくのか。一寸先の見通しも揺らぎ始めた動乱期の今、日本とアメリカの関係はどうあるのが日本人にとって望ましいのか。

それを考える判断材料の一つとして、本書の内容を役立てていただければ幸いである。

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