アメリカで国政選挙のない今年、最も注目された地方選挙であるニューヨーク市長選が行われました。日本流に言えば「ゼロ打ち(開票率ゼロ時点での当選確実)」とまではなりませんでしたが、投票締切から約35分で当確が出たのは、民主党のゾーラン・マムダニ候補です。民主社会主義を自称、インド系ウガンダ人のイスラム教徒で、アメリカに来たのは7歳の時、帰化したのは2018年という移民一世として、34歳の若さでニューヨーク市長に当選しました。
マムダニ氏の政策は「富裕層への徹底的な課税」「市内における家賃の凍結」「食品スーパーの公営化と卸値での販売」「5歳までの託児所の無料化」「市内を走るバスの無料化」といった徹底したものですが、有権者はこれを支持したわけです。このマムダニ当選という事件ですが、単にニューヨーク市だけではなく、全国的に政局への影響を及ぼすと考えられます。
勝因としては、AIの実用化に伴って若者層に広がっている将来への不安と、雇用が揺らいでいる現状への不満がマムダニ氏への期待となったことです。不満や不安の心理が、いわゆる「トランプ現象」のような右方向ではなく、ニューヨークの場合は左方向への政治的エネルギーとなったことが指摘できると思います。
まず、共和党サイドの動向についてですが、トランプ大統領は、同氏が当選した場合にはニューヨーク市への連邦の補助金を徹底的にカットするとしています。マムダニ市政が、これに対抗できるのかは注目点となります。
公約実現には高いハードルが
また、マムダニ氏が一貫してパレスチナを支持していることを、連邦議会の共和党議員団は問題にしており、同氏の市民権を剥奪する手続きを模索しています。いかにも分断の時代といった姿勢ですが、仮に市民権剥奪が本当に議論されるような事態となれば、国政レベルを巻き込んだ混乱が予想されます。
仮にマムダニ氏がすんなりと市長に就任できたとしても、公約の実現には高いハードルが待っています。バスの無料化に関しては、運営するMTA(ニューヨーク都市圏交通局)の労組が支持しているので実現できるかもしれません。ですが、目玉政策であるスーパーの公営化には民営スーパーの経営者や労組が激しく反対しており実現には紆余曲折が予想されます。
何よりも問題なのは、ニューヨーク市内の億万長者たちが、資産を守るために州外に逃亡することであり、仮にそうなれば市内の不動産価値が暴落する危険があります。マムダニ氏の立場からは、億万長者が出ていって不動産が暴落すれば、賃料が下がって市民の利益になるのかもしれませんが、市全体の経済活動が損なわれれば全員が不幸になる可能性もあります。

