なってみたいなパイロット。世界の空を駆け回り、年収2000万~3000万円は当たり前。職場では才色兼備のキャビンアテンダント(CA)に囲まれ、合コンでも、飲み会でも話題の中心はもちろん、オレ。

厳しい身体検査もクリアしなければならない。

厳しい身体検査もクリアしなければならない。

筆者の空想はともかく、誰もが一度は憧れる花形職業、狭き門だ。たとえば国内大手の日本航空や全日空でパイロットになろうとすれば、自社養成パイロットの採用試験を通過しなければならない。両者とも50人前後の定員に対し、毎年100倍余りの受験者が殺到。合格者の出身大学を見ると、成り行きとして東大、京大、早慶、一橋といった超のつく一流どころばかり。チャンスは事実上新卒の一度きり、一流大学の入試に失敗すれば道は閉ざされたも同然。

しかし近年、航空各社では自社養成パイロットの比率を下げ、外部養成パイロットの採用を拡大する動きがある。全日空では年間新規に必要とする60人のパイロットのうち、20人前後を外部養成から採用している。

だが、超一流大学への入試失敗組にとり、2006年4月に新規開設された東海大学工学部航空宇宙学科航空宇宙学専攻(神奈川県平塚市)は、「一発逆転」を目指す格好の場。桜美林大学などにも同様の専攻がある。

2010年3月に卒業を迎える一期生だが、浪人も含めると半数近くが社会人からの再挑戦だという。全日空のパイロット試験に合格した針谷航(はりがやわたる)さんら多くがパイロットへの夢を実現している。針谷さんも再挑戦組。

「神奈川の栄光学園高校を卒業後、映画制作を志して米国のディアブロ・バレー・カレッジ(サンフランシスコの大学)に進学しました。しかし壁を感じ始め、少年のときからのパイロットという夢が頭をもたげたのです」(針谷さん)

もちろん軽い気持ちで受験し、一発逆転できるわけではない。一期生の針谷さんが受験したときの倍率は合格者40人余りに対して7倍超。一次試験のセンター試験に加え、二次試験ではTOEIC450点以上という英語力、矯正視力1.0以上ほかが要求される航空身体検査、航空適性試験、面接が課せられる。入学後は1年半のアメリカ留学(ノースダコタ大学)を含めた4年間のカリキュラム。全日空の就職面接では、全日空の飛行機にお客として乗ったときにCAにもらった「絶対パイロットになれるように頑張って」という手紙を懐に秘め、内定を勝ち取った。

現在、彼女はいないという針谷さん。将来はCAと結婚するのだろうか。

全日空のパイロットOBでもあり、東海大学同専攻教授の遠山誠二氏によれば「パイロットがCAとの結婚が多いというイメージは必ずしも当てはまりませんよ(笑)。パイロットは就職してから1年は操縦せずに会社勤務。素敵な地上勤務社員との出会いが待ち構えています。多くは、ここで捕まってしまうんです」。

(撮影=岡本 凛)