それでも憎めないエピソード
文明の利器に関しても、「電車などは嫌いでした。電話を取りつける折は度々ございましたが、何としても聞き入れませんでした。女中や下男は幾人でも増すから、電話だけは止めにしてくれと申しました。(中略)電車には一度も乗った事はございません。私共にも乗るなと申していました」。
一方、自分が好きなものへの執着はすごい。
「ある夏、二人で呉服屋へ二、三反の浴衣を買いに行きました。番頭がいろいろならべて見せます。それが大層気に入りまして、あれを買いましょうこれも買いましょうといって、引き寄せるのです。そんなにたくさん要りませんと申しても「しかし、あなた、ただ一円五十銭あるいは二円です。いろいろの浴衣あなた着て下され。ただ見るさえもよきです」といって、とうとう三十反ばかり買って、店の小僧を驚かした事もあります」
そう書いたうえで、「気に入るとこんな風ですから、ずいぶんと変でございました」と結ばれている。
感性が研ぎ澄まされた人にこそありがちな変人ぶり。西田千太郎も小泉セツも振り回されただろうが、一本筋が通った、憎めない偏屈だったのではないだろうか。
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