銃規制、人工妊娠中絶、気候変動……対立の背景にあるものは根深い。世論調査は、「赤い州」と「青い州」の間に深い溝があることを示唆する。GDP世界1位を誇る大国はこのまま真っ二つに分かれてしまうのか――。

米国の分断が加速している。米保守活動家チャーリー・カーク氏が演説中に銃撃された事件など、政治暴力の脅威も身近に迫る。

そうした今、米国の著名な社会学者でカリフォルニア大学バークレー校の名誉教授、A・R・ホックシールド氏は分断に歯止めをかけるべく、ある提案をする。それは、人々が理性を働かせるだけでなく、他者の感情にも耳を傾ける「バイリンガル」になることだ。

感情社会学の先駆者として知られる同教授は、ベストセラー『壁の向こうの住人たち アメリカの右派を覆う怒りと嘆き』(布施由紀子・訳、岩波書店)の著者でもある。新刊の『Stolen Pride: Loss, Shame, and the Rise of the Right』(仮題『盗まれたプライド:喪失、恥、そして右派の台頭』未邦訳)も話題になった。

ホックシールド教授によれば、トランプ大統領は「人々に“感情”で語りかけるカリスマ的リーダー」だ。今、なぜ「感情」に注目すべきなのか。米国に希望は残っているのか。同教授がロングインタビューに応じた。

星条旗と正義の女神像
写真=iStock.com/DNY59
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――米国の現況をどう見ますか。

A・R・ホックシールド(Arlie Russell Hochschild)
A・R・ホックシールド(Arlie Russell Hochschild)
​米国ボストン生まれ。カリフォルニア大学バークレー校名誉教授。専門は社会心理学。特に感情の社会性に着目し、感情社会学という新しい研究分野を切り開いた。著書邦訳版に『壁の向こうの住人たち アメリカの右派を覆う怒りと嘆き』(布施由紀子・訳、岩波書店)など。撮影=Paige Parsons

事態は恐ろしいほど悪化している。大半の米国人は二極化を非常に憂えている。国民は諸問題において、実は共和党と民主党の立場よりも中道寄りだ。トランプ大統領が二極化に拍車をかけているのは間違いない。彼は「ヘイト(憎む、嫌悪する)」という強い言葉で、「左派や民主党は米国を憎んでいるから、私も彼らを憎んでいる」と言う。米大統領による過激な言葉遣いや暴力の正当化は前代未聞だ。

――教授は、トランプ氏の政界進出前から、分断に関する聞き取り調査に着手したそうですね。

地方に住む右派の人々を対象に、2つの研究を行った。彼らと食事を共にするなど、各プロジェクトに、それぞれ7年を費やして交流を深めた。

1つ目は、南部ルイジアナ州沿岸部で、(オバマ大統領就任の2009年に始まった)保守系の草の根運動「ティーパーティー(茶会党)」に強い関心を持っている人々の研究だ。同運動の参加者の大半は、16年の大統領選でトランプに投票した。

2つ目の対象地域は、アパラチア地方の一部である、ケンタッキー州東部のパイク郡だ。全米で最も白人の割合が高く、2番目に貧しい選挙区だ。非大卒の白人ブルーカラー層が多く、かつては民主党の地盤だった地域だが、今では共和党支持者が目立つ。