東京駅丸の内駅舎内にある東京ステーションホテルの朝食ブッフェは、高い評価を得ている。いったいどんな料理が並んでいるのか。上阪徹さんの著書『東京ステーションホテル 100年先のおもてなしへ』(河出書房新社)より、一部を紹介する――。(第2回)
「ホテルでこんなおいしい海苔が食べられるとは」
今や高い評価を得ているオールブッフェだが、総料理長の石原雅弘が最初に考えたのは、日本の伝統的な高級旅館との対比だった。
「おいしい朝食がお部屋に運ばれてくるわけですね。ホテルも旅館もお値段がさほど変わらないとしたら、朝食が貧相であれば、どちらを選ぶだろうか、と。やっぱり旅館が選ばれてしまうなと思ったわけです」
では、何を用意すればいいのか。ゲストの中には、シンプルにパンとヨーグルトとコーヒー、という人もいないわけではない。一方で、充実した朝食を楽しみにしている人も多い中で、何に最も気をつけ、心がけないといけないのか。
「当たり前に、きちんと良いものを出す、ということです。例えば、朝食の海苔一つとっても、おいしい海苔とそうではない海苔があるんです。当然、とびきりおいしい海苔を食べれば、おいしいと感動してもらえる」
梅干しも、安い梅干しもあれば、高い梅干しもある。だが、値段が高ければ、おいしいわけではないと石原は言う。
「だから、一つ10種類ずつくらい、いろいろなところから取り寄せて、値段というよりは、自分で食べておいしいものを厳選していったんです。100円の海苔よりも、50円の海苔のほうがおいしければ、自分の舌を信じて、これにする。もちろんチームスタッフにも食べてもらいますけどね」
つまりは、すべて味で選んでいったのだ。
「再開業したとき(2012年)、たくさんのお客様から、海苔がおいしかった、梅干しがおいしかった、と言っていただきました。ホテルでこんなおいしい海苔が食べられるとは、思ってもみなかった、と」

