親の終活は何から始めればいいか。東京科学大学医学部臨床教授の木村知医師は「親の認知機能が衰える前に話し合った方がいいことがある。一つが“デジタル遺品”の問題だ。写真やSNSなど金銭の絡まないものもあるが、中には放置しておくと、家族に損失が降りかかってくるケースがある」という――。

高齢親の運転はやめさせるべきなのか

「来月は運転免許の更新。認知機能検査でひっかかって、もし運転できなくなったらひとり暮らしだし、買い物にも行けなくなって本当に困ってしまうわ」

先日、80代なかばの女性患者さんから、こんな言葉を聞いた。

高齢者が自動車事故をおこすたびにメディアが大きく取り上げるものだから、80代の方が免許の更新をすると聞いたら「まだ運転しているの? 家族はどうして止めさせないのかしら」などと思う方もいるかもしれない。

ハンドルを握る高齢者
写真=iStock.com/kazuma seki
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しかし高齢者、しかも80代といっても、いろいろだ。十把一絡げに「運転させるべきではない」と断罪するのは、あまりにも乱暴すぎる。この方も、通院している患者さんではあるが、とくに大きな病気もなく、ごく少量の降圧剤を処方しているだけで認知機能にはまったく問題ない方だから、検査は間違いなくパスするはずだ。しかも日常的に運転しているというのだから、サンデードライバーやペーパードライバー、免許取りたての若者よりは、よっぽど安全といえるだろう。

自動車を手放した母(92)に起きたこと

じつは私の母は現在92歳だが、昨年体調を崩して入院し在宅酸素療法を開始することになるまでは、ほぼ毎日のように運転し日常の買い物をおこなっており、まさに自動車は生活必需品であった。

もちろん家族として不安がなかったわけではない。「そろそろ運転を止めてはどうか」と言ったことも1度や2度ではない。だがそのたびに「買い物に行けなくなってしまう」と言い返されてしまうと、こちらとしても同居していないこともあって強く言えなくなってしまうのであった。

当時は母の運転が大丈夫かどうか、ときどき助手席に同乗し一緒に外食などにも行った。すると制限速度はもちろん遵守、左右後方確認もしっかりおこなえていたし、一瞬ハッとする路地からの急な飛び出しにも反応よくブレーキを踏めていた。なんなら、すっかりペーパードライバーと化していた私の方が、運転技能的には劣っていたかもしれない。

それが体調を崩して以降、外出も困難になってしまったため、とうとう1年前に自動車を手放すことになった。とくに趣味を持たない母にとって「買い物」は、生活必需品や食料の調達だけでなく、気分転換や楽しみでもあったことから、その落胆はけっして小さいものではなかった。

だが幸いなことに、母はパソコンやインターネットが使えた。今でこそやらなくなったが、facebookのヘビーユーザーでもあった。そこで買い物はネット通販でおこなうようになったのである。