これからの医療はどう変わっていくのか。『AIに看取られる日 2035年の「医療と介護」』(朝日新書)を出した医師の奥真也さんは「医療分野はAIとの相性が特にいい。いまこそ診療にAIを使い始めないと“時代に取り残される”という現実を、医者も患者も直視したほうがいい」という――。

AI時代の医師に求められるもの

AI時代の「名医」とはなんでしょうか。

患者さんの経済的境遇に配慮したり、終末期医療において患者さんの支えになったり、といったことは、そもそも人間的に厚みのない人には難しいでしょう。

そう考えると、AI時代の医師は膨大な知識は必要でない代わりに、医学倫理や生命観など、医師という仕事におけるより本質的な素養が必要とされるのだと思います。

昭和から平成までの医学教育は、ガイドライン通りの診察ができる人をなるべく多く育てることを目標に置いて行われていて、そのためほかの学部では考えられないほどに「定石」や「手順」を教えることにおびただしい時間を費やしてきました。

詰め込みを経て実際にガイドライン通りの診察ができるようになれば、医師として優秀な部類になる。つまりは、人間としての幅がまったくない人が「名医」になってしまうこともあったのです。

翻って、AI時代の医療では、ガイドライン通りの診療はAIがやってくれるわけですから、もはやガイドラインは前提でしかありません。

AI医療の時代には、AIは使いこなしたうえで、AIにはできない患者さんの心に寄り添う仕事ができる人だけが医師として一段階上のステージにたどりつけるのであり、そうした人がカギカッコつきではない、本当の名医と呼ばれるに値するでしょう。

ヒューマノイドロボットドクター
写真=iStock.com/onurdongel
※写真はイメージです

「病院=儲かる」は過去のハナシ

さらに本稿では、AI時代における病院経営について考えたいと思います。

一般の人にとって「病院=儲かる」ものであり、「医者=高収入」というイメージがまだまだ根強いのかもしれません。ただ実際は、近年診療報酬が急激に下げられていることもあって、医療機関は決して儲かるビジネスではなくなっています。

クリニックも、美容外科などの自由診療を行うところは別ですが、保険診療を行い、診療報酬を主要な収入源にしている一般的なクリニックだと、人件費などの負担がかさんで経営が火の車ということは珍しくありません。

病院も、公的なお金で運営されている大病院は別として、病床数200床に満たない小さな病院の経営事情はクリニックと同様に大変です。病院もクリニックも、医療機関としての使命を真面目に果たそうとするところほど利益は出ず、儲からない時代になっています。

東京商工リサーチによれば、2024年における「病院・クリニック」の倒産件数は64件(前年比56%増)で、過去20年で最多件数でした(*1)

倒産理由としては、熾烈な競争や経営者の高齢化、後継者不足、そしてコロナ禍後に急上昇した電気代や人件費など複合的な要因によるもので、先行きの見通しが立たないまま倒産に至る病院やクリニックは今後も増加基調をたどる可能性が高いと指摘されています。