流れに逆らわず、適切に身を守る
すべてのものが変化する、無常の世の中。そこで生きるのは、たとえてみれば私たちはみな川に流されているということです。では、その激流を、どう渡ればいいのでしょうか。
問われたブッダはこう答えています。
「私は、立ち止まることなしに、あがくことなしに、激流を渡ったのです」
何もせずに立ち止まっていたら沈んでしまいますし、激流に逆らって泳ごうと暴れれば溺れてしまいます。波に合わせて流してもらうことで、うまく渡ればいいのです。岩にぶつかりそうになったときは、ちゃんと手を打って身を守る。流れの緩い場所になったら泳いでなるべく岸に近づく。また流れが激しくなったら、泳ぐのを止めて流される。そのように人生を調整し、操縦しながら進めていけばいいと語っています。
「立ち止まりもせず、あがきもせず」という微妙な調整です。川の流れに応じてその場でテキパキと的確に判断しなければなりません。そのためにも、先に述べたように、過去や未来に囚われず、つまり頭の中に余計な妄想を描いていないで、「いま、ここ」をしっかり生きることが大切なのです。
私にとってブッダの言葉はすべて大切ですが、その中でも多くの人に知ってほしいと思っているのは次の言葉です。「本当の宝物は知恵である」。
知恵をもっている人は、世界を偏見なしに、軽々と面白がってとらえます。ところが、この知恵を妨げるのが「感情の毒」なのです。怒りや見栄、エゴ、嫉妬など感情のウイルスに汚染されると、脳がうまく活動しません。あれやこれやとややこしく考えてしまうのは、感情のために脳の活動がストップしてしまっている証拠です。
知恵をもっている人は、性格も謙虚になり、物事をシンプルに思考します。たとえば仕事で自分の提案がうまく採用されなかったり、あるいは仕事でミスをしてしまった場合。どうしても自分の面子や感情が入ってしまうかもしれません。しかし「まずいッ」という悔いや焦りが入り込むと、問題はかえってこじれ、うまくいかなくなる可能性が大きくなるのです。
1945年、スリランカ生まれ。13歳で出家得度。国立ケラニヤ大学で仏教哲学の教鞭をとる。80年に来日。駒澤大学大学院博士課程を経て、現在は日本テーラワーダ仏教協会で初期仏教の伝道と瞑想指導に従事。ベストセラー『怒らないこと』『バカの理由』ほか著書多数。右の写真は、釈迦牟尼(ブッダ)の身体から発したとされる後光の色を配した「五色の仏教旗」。