「プロ」を束ねるために完成イメージを示せ
語る言葉に説得力のないリーダーに人はついていかない。言葉に説得力を持たせるためには、自分自身がそのプロジェクトに一番熱くなっている必要がある。人の信頼は、本気でないと絶対に得られない。自ら思い描いたイメージだからこそ、人に向かって熱く語ることができる。だからこそ、人が納得してついてきてくれるのだ。
繰り返しになるが、都市とは本当にいろいろな機能が複雑に絡み合っているものだ。必要な知識は経済、政治、建築、文化、芸術、飲食、ファッションなど多岐にわたるが、すべてに精通する人間などいない。そのときに必要なことは、専門家を集め、彼らの能力を引き出しつつ新たなコラボレーションをリードしていくことだ。
建築家、デザイナー、料理人、アーティスト、経営コンサルタント、都市計画の専門家……。個性の強いプロフェッショナルを束ねていくには、人と人の組み合わせによって何が起こるかをイメージできる能力が必要になってくる。AさんとBさんをコラボレーションさせたら、いったい何が生まれるのか。それをイメージできなければ、計画はバラバラになって失敗する。
他者の力を借りなければ大きな仕事はできない。それは都市づくりだけでなく、あらゆる仕事にも共通する。ここでも重要なことは、自分の中に明確な完成イメージを持っておくことだ。
「大切なのはオリエンテーションだ」と常々言っている。複数の企画書からベターなものを選ぶことは誰にでもできる。それは冒頭に話した「メニューから選ぶだけの人」だ。料理人の本当の実力を引き出すのは、独創的な新メニューを注文できる人だろう。都市づくりでは、「こういうものをつくりたい」という強い想いと明確なイメージをもとに、あらゆる分野のプロを活かし、束ね、新たな道を切り拓いていくことが求められる。
森ビルの歴史は既成概念への挑戦の歴史だ。東京を国際戦略都心として再生することが必ず日本再生につながる、という社会的使命とともに、理想とする都市像「ヴァーティカル・ガーデンシティ」の実現を目指してきた。チャレンジしなければ何も生まれない。そして、チャレンジすることが人を育てると強く思う。我々は、「街づくりを通じて人を育み、人づくりを通じて街を育む」という考えのもと、これからも既成概念にとらわれることなく新たな挑戦を続けていく。
1960年、広島県生まれ。85年横浜国立大学大学院工学研究科修了、森ビル入社。2001年タウンマネジメント準備室担当部長、06年取締役、08年常務、09年副社長。中国での開発事業におけるタウンマネジメント運営、日本国内での営業本部長代行などを担当し、11年6月より現職。