なぜ六本木ヒルズは店が探しづらいのか

森ビル社長 辻 慎吾氏

私は料理を趣味のひとつにしている。料理にたとえていえば、メニューから食事を選ぶだけの人に、優れた「都市(まち)づくり」はできない。

森ビルは「都市づくり」を手がける企業である。オフィスビル単独の「点的開発」から始まり、複数の敷地を合わせた「面的開発」、そして1986年に竣工したアークヒルズを契機に「都市づくり」へと事業を進めてきた。その根底にあるのが、森稔会長が提唱してきた「ヴァーティカル・ガーデンシティ」という思想である。

日本語に訳せば、「立体緑園都市」ということになる。都心の空と地下を超高度利用し、地表は全面的に緑に開放する。さらに、職、住、遊、商、学、文化などの都市機能を集積し、機能性の高いコンパクトシティをつくりあげるという発想だ。

「ヒルズ」の原点であるアークヒルズは、竣工まで17年の歳月を要すなど民間による日本初の大規模再開発として困難を極めたが、この発想が奏功し、20年以上を経過した現在でも高い稼働率を維持している。その後、森ビルが手がけた六本木ヒルズや表参道ヒルズ、そして上海環球金融中心といったプロジェクトにおいても、この発想が活かされている。

私が開発段階からかかわった六本木ヒルズでは、このヴァーティカル・ガーデンシティとともに、「タウンマネジメント」という世界に類例を見ない発想で都市づくりを行っている。

六本木ヒルズはオフィス、住宅、ホテル、各種店舗、美術館、映画館、イベント広場、そして緑地といったさまざまな要素の複合体である。それらは整然と並んでいるというよりは、むしろ複雑に絡み合った構造になっている。

かつての都市づくりでは、オフィスはオフィス棟、住宅は住宅棟、店舗はショッピングセンターといった形に集約し、それらを中央広場によって接続していた。一方、六本木ヒルズの場合、オフィス棟の下にも住宅棟の下にも、そしてオフィス棟とホテルの間にも店舗があり、しかも店舗の配列には一見、脈絡がない。訪れた人は六本木ヒルズの中を回遊せざるをえなくなる。しかし、そうした仕掛けがあるため、いつ訪ねても、新しい出合いや発見がある。