コンプライアンス(法令遵守)の重要性が高まり、企業は社内の不祥事に敏感になっている。ひと昔前までは見て見ぬふりをしていたきらいのあるセクハラの問題一つとっても、いまでは懲罰の対象になる。噂の内容によっては、瞬時に対応しなくてはならなくなっているのだ。

ただし、ケースバイケースで相談相手を見極める必要もある。それが先の外資系システム会社のイジメに似たヤバイ噂の場合である。いくら直属の上司に相談しても、「仕事の手を抜いている」といった噂を吹き込まれて上司がマイナスの先入観を抱いていたら、「君が悪いんじゃないのか」と突き放されることもありえる。

「組織のなかには上司よりも力を持って、皆をコントロールしている人が必ずいます。それは“お局さん”かもしれません。そのキーマンに近づいて自分自身を理解してもらい、『そんな子じゃないわよ』といってもらったほうが問題解決の近道になる可能性が高いのです。もし、キーマンに直接いいにくければ、キーマンにいつもくっついているナンバーツーの人から間接的にいってもらう手もあります」と塚越さんはアドバイスする。

一つ忘れてはいけないのは、ヤバイ噂が交わされているその場に、槍玉にあげられている当の本人はいないということだ。だから気づいたときには、ヤバイ噂が燎原の火のごとく燃え上がってしまっていることが多い。「個人的な危機管理の観点からいえば、ヤバイ噂のような自分のマイナス情報を耳に入れてくれる信頼できるチャンネルを常に持っておくことが大切です」と江良社長はいう。

また「火のないところに煙は立たぬ」ともいう。身に覚えのない噂であっても、「部下の女性と外のレストランで食事をしながら相談にのってあげた」「頻繁にキャバクラに通っている」など、何かきっかけになることがあったのかもしれない。ヤバイ噂を立てられたら、自分の身を律するいい機会と考えよう。

成城大学文芸学部教授 川上善郎
1946年、東京生まれ。68年東京大学文学部卒業。社団法人世論科学協会、雇用促進事業団職業研究所、文教大学を経て現職。著書に『うわさが走る 情報伝播の社会心理』などがある。

エイレックス社長 江良俊郎
1962年、大分県生まれ。86年神奈川大学法学部卒業。ユナイト・パブリックリレーションズ、プラップジャパンを経て、2001年にエイレックスを設立し現職に就く。危機管理のスペシャリストとして活躍。

東京中央カウンセリング代表 塚越友子
スイス生まれ。東京女子大学大学院で社会学修士号取得。会社勤めをしていたものの、うつ病となって昼間の勤務を諦め、銀座のホステスとなる。2008年に東京中央カウンセリングを独立開業して現職に。
(若杉憲司=撮影)
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