【伊賀】シンガポールはお金持ちと才能のある人を集めようとしているのでしょう。私も何度か訪れたことがありますが、住みたいか、ときかれたら躊躇します。ルールや罰金が多すぎますし、ビルばかりで息が詰まりそうになるんです(笑)。東京もロンドンもニューヨークも、シンガポールを目指すべきなのでしょうか。

【グラットン】そんなことはないと思いますよ。お互いが個性的だからこそ、競争が起きるわけですから。

【伊賀】先生がお住まいのロンドンはどんな魅力があるのでしょうか。

【グラットン】それは明確です。世界中から、裕福な人がロンドンに住みたいとやってきます。それだけ住むのに素晴らしい街です。お金持ちばかりではなく、才能豊かな人たちもヨーロッパ各国からやってきます。

【伊賀】英語の問題も大きいと思いますが、なぜ世界中のたくさんの人たちを引き寄せることに成功したのでしょうか。

【グラットン】いろいろな要素の掛け合わせだと思います。近隣含め、オックスフォード、ケンブリッジと、世界に冠たる高等教育機関がいくつもありますし、移民政策の影響も大きいと思います。

【伊賀】日本にも「移民を受け入れるべきだ」という議論がありますが、日本はどうすべきと先生はお考えですか。

【グラットン】それに関して私は意見を述べる立場にありません。移民は既存の社会に溶け込みにくいというマイナスはありますが、イギリスに関していえば、プラスのほうが大きかったと思います。

【伊賀】国レベルで考えると日本はいかがでしょう。

【グラットン】ロンドン大学のビジネススクールで教授になったとき、日本企業の強さに目を見張らされました。徹底した品質管理が世界に認められた要因だと思います。ところが、ここ5年くらいを見ると、家電業界を中心に、競争力を失い、厳しい立場に立たされている企業が目立ちます。日本はもともと非常にイノベーティブな国だと思います。今はサムスン、LGといった手強い競争相手がお隣、韓国にいますが、日本人の教育レベル、仕事の質、技術力はいずれも非常に高い。いずれまた大きなイノベーションを次々と生み出す国になるのではないでしょうか。