強烈なトップに盲従するムード
報道では日産は米国での生産台数を17%減らすことを検討しているようで、9000人の人員削減のかなりの割合が米国になるのではないかと見られている。背景には米国内で賃金が大幅に上昇していて、採算が取れない事態に直面しているのではないかと考えられている。
こうした日産の対応は、対処療法で戦略性に欠けるように見える。カルロス・ゴーン元CEOが実質20年近くにわたって日産に君臨した結果、強烈なトップに盲従するムードが培われた。世に長期にわたって全権を握るトップは少なくないが、その人物が死亡したり失脚した後、企業がガタガタになるケースが少なくない。良いか悪いかは別としてゴーンのリーダーシップに依存してきた日産の舵取りがうまくいっていない。
もともと日産は内部抗争の激しい会社で、ゴーンが突然、逮捕されて会社を去った後も、すんなり後継体制が決まらなかった。社長だった西川廣人氏をゴーン体制を支えた人物として放逐し、共同指導体制になるかとみられたものの、ひとりが辞任するなど、すったもんだが続いた。現在の内田誠氏が就任して5年経つが、株価はこの5年でほぼ半分になっている。COO(最高執行責任者)だったアシュワニ・グプタ氏も2023年6月にCOOを辞任して退社した。仏ルノーでの幹部経験もあり、ルノーと日産のアライアンス(連携)を担うひとりだったグプタ氏と内田氏のソリが合わなかったのか。背景には、日産が長年望んでいたルノーとの「対等な関係」への回帰がある。
経営陣が力を入れてきた「ルノーからの自立」
1999年、倒産の危機に瀕した日産は、ルノーから6430億円の出資を受けた。日産の株式の43.4%を握ったルノーは、実質的な親会社となり、送り込まれたゴーンが全権を握ることになった。当初は対等な関係のアライアンスと言っていたが、ゴーンがルノーのトップになると、日産に対して統合を求めるようになった。2019年にはルノーから日産に経営統合が提案されている。ルノーの大株主であるフランス政府の意向が働いているのは明らかだった。
ゴーンが去った後、日産の経営陣はルノーからの自立が最大の課題になった。2023年には、ルノーの保有株を15%にまで引き下げ、日産保有のルノー株の比率と合わせることで、「対等」な資本関係にすることに合意した。差の28.4%分の株式はフランスの信託会社に預ける形でルノーから切り離されたが、結局、その株式は日産が少しずつ買い戻すことになった。2023年12月に4.99%分を1200億円、24年3月に2.5%分を594億円、24年9月には5.03%分を798億円で取得した。さらにまだ信託会社には18.7%分が残る。まだまだ資金が必要になるわけだが、自動車販売の不調でキャッシュフローが厳しい中で株式を買い戻す資金を確保するのは並大抵ではない。