原産国でも名前まで知っている人はほとんどいない

現地でアイスランドガイは主に缶詰などとして流通しており、ホッキガイなどと一緒にクラムチャウダーの材料に使われることが多い。このほか、米国・ロードアイランド州などでは、アイスランドガイを白ワイン蒸しにするほか、ほかの具材とともに細かく刻んでパン粉焼きにする「Stuffies」(スタッフィーズ)なる料理が一般的という。

いずれにせよ、アイスランドガイは食材のひとつであるものの「カナダでも貝の一種という程度の認識で、貝の名前を知らずにクラムチャウダーを食べている人がほとんどではないか」とアレックス社長。それなら当然、日本でアイスランドガイの存在を知る人は限られているだろう。

実はこの貝、驚くほどすごい一面がある。信じられないくらい長生きする貝なのだ。かつて英国の大学の研究チームが、アイスランド沖で捕獲されたアイスランドガイの年齢分析を行ったところ、推定507歳という個体を発見。動物の中では最高齢ではないかとみられている。アイスランドガイすべてが数百年生きるわけではないようだが、記録的な長寿貝として話題性は大いにある。しかもそれが食用となればなおさらだ。

だが、この発見から10年以上経過した今でも、食用としてのアイスランドガイの知名度は極めて低い。そうした中で、この貝の潜在的な魅力を引き出そうと動いたのが、カナダの漁業会社・クリアウォーター社と、前出のグルメグローバル社だった。

寿司ネタにするには漁船上での速やかな加工処理が必要

両社が、アイスランドガイを日本の寿司ネタに格上げしようと動きだしたのは4~5年前。きっかけは「セーブル島沖で比較的たくさん獲れるものの、いまひとつ有効利用されていないため、クラムチャウダーだけではもったいない。なんとか寿司ネタにできないものか、という思いが強かった」(アレックス社長)という。

ただ、寿司ネタへの道のりは易しくはなかった。アレックス社長もクリアウォーター社の担当者も、当初は「もう無理。諦めよう」と断念したことが幾度となくあったという。そのわけは、帰港するまでに漁船上でかなりの作業が必要だったからだ。

アレックス社長によれば、「アイスランドガイを獲っても、漁船からそのまま陸揚げしたのでは、次第に鮮度が落ちてくる。寿司ネタにするには、漁船上である程度の段階まで加工処理しなければならなかった」と説明する。

漁船上で何をすべきなのか。簡単にいうと、殻を取ってむき身にし、異物を除去し、内臓を除去して洗浄してから軽く湯通しして、凍結処理する。漁獲後、この工程を速やかにこなさなければ、安全・安心な寿司ネタとして、アイスランドガイを遠い日本で提供できない。

こうした工程をクリアし、アイスランドガイの寿司ネタとしてのデビューに見通しがたったのは今年の春。日本のほか、中国やEU(欧州連合)などにも輸出可能という。

画像提供=F&LC
カナダ東沖でアイスランドガイを漁獲する同国の大型漁船