支持の拡大は、単なる「判官びいき」ではない
斎藤氏が支持を拡大した土壌は、弱かったころから阪神タイガースを応援し続けている風土と通じるのではないか。
兵庫県民には阪神ファンが多い。その気質とされる「判官びいき」が根付いているから、斎藤氏の味方をした、と(だけ)言いたいわけではない。そうではなく、斎藤氏が、関西の、というよりも、大阪のマスメディアにいじめられているように兵庫県民に映ったから、これだけの盛り返しを見せた、と考えているのである。
メディア論で言われる「アンダードッグ効果」=負け犬になりそうな候補者を応援したくなる有権者心理、で片付けられるものではない。もっと構造的なものだろう。
私は先に「関西の新聞とテレビ番組」と書いたが、そのほとんどは大阪でつくられている。大阪府は、兵庫県と比べて、経済の規模は大きく上回り、文化の面では関西の中心である。他方で、その面積は1:4の開きがある。兵庫県は、その広さゆえに、本来なら、多様な文化や風土をきめ細かく報じられてしかるべきなのに、大阪目線のマスメディアは、それをすくい取れていない。
「在阪メディア」という巨大な権力
こうした、兵庫県の広さと多様性をカバーできないマスメディアは、斎藤氏批判で染め上げられ、それを目にする県民は、ますます斎藤氏への同情=「斎藤さん、かわいそう」を膨らませたのではないか。
大阪発のマスメディアから斎藤氏がいじめられているように映ったし、そればかりか、地元紙の神戸新聞や、地元テレビ局のサンテレビは、その尻馬に乗っているように見えた。
大阪という巨大な権力から、自分たちが3年前の知事選で支持した人物をないがしろにされている。この構造そのものに、県民は同情にとどまらず、怒りを抱いたのではないか。斎藤氏に向けられ(かけ)ていた怒りは、大阪目線のマスメディアや、対立候補へと矛先を変えたのである。
こうした民意の変化が今回の斎藤氏を完勝に導いたのだとしたら、「マスメディアの敗北」から立ち直る道は、ほとんど見えない。