「自分で病気を予防していく」という意識が重要

けれども、それを踏まえたとしても、私たちが「医療の無駄」を感じやすいのは、薬を処方されているのに決まった通り服用していない人や、病院にたむろする高齢者を目にしているからだろう。だが見方を変えれば、一見元気そうな高齢者が病院を受診していたとしても、早期発見・早期治療のほうが医療費はかからない。また日本の医療制度設計の問題もある。検査や薬の処方をしなくても、医師から患者へ口頭で医学的指導をする時も診療報酬が加算されるような制度になれば、「無駄」が減る。

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そして個人としては信頼できる医師のところで診察や治療を受け、自分で病気を予防していくという意識が重要だ。皮肉な話だが、日本のような皆保険制度がない海外では、治療費が高くなるのを防ぐため、患者が進んで健診を受け、病を予防する意識が高い。一方で、保険診療がある日本は、安く治療を受けられることでかえって予防に対する意識が低くなってしまう。そういった医師の声がとても多い。私も実際、普段医療健康の記事を書いていて「予防」の記事は読まれないと感じる。

だがめげずに、最後は個人の健康を守る術を記したい。それが最終的に医療費を、国保料を下げることにつながっていくからだ。

国保加入者・65歳以上はメタボ率が上がるワケ

以前、全国の救急医療を取材していた時、飯塚病院特任副院長で救急科の鮎川勝彦医師は「救急はかなりの部分で予防可能である」と話していた。

「交通事故も平成の始まりと比較すると半分以下に少なくなっていますが、病気も起こり得ることを予見して早めに対応すれば防げることが多い。例えば熱中症もそうですが、初期の対応で重症化を避けられる。もちろん年を取って発症する病気はどうしようもない部分もありますが、それさえも食事や運動、規則正しい生活で遅らせることができるんです」

救急と同様、慢性疾患もそうだろう。糖尿病やがんなどの生活習慣病は、その名の通り、生活習慣でリスクを下げられる面がかなりある(もちろんそれだけではない。私の母は規則正しい健康的な生活を送っていたが、24歳という若さでがんのため死亡した。一方、喫煙者で100歳まで生きる人もいる)。確率の問題なのだが、長く健康的な生活を送っている人ほどやはり病にはなりにくい。

筆者居住地の区役所・K職員からこんな話を聞いた。

「我々の区では国保健診の40歳以上から64歳以下の結果は、メタボ(メタボリックシンドローム:動脈硬化のリスクを高める)比率が東京都平均より低いのです。が、65歳以降にはぐっと高くなります」

なぜだろうか。

「要因のひとつとして、退職を迎えて被用者保険(組合健保や協会けんぽ)から国保に加入してくる人たちがその比率を上げてしまうようです。被用者保険に加入している時には不摂生をしつつも病にはならなかった。しかし国保に加入する時点でリスクが高くなり、メタボ状態。すると加入中に実際に病気になってしまう人もいるでしょう。糖尿病などは長い時間をかけて体を蝕んでいくといいますから」