市場がシュリンクする中で、営業担当者はなぜ“あきらめない営業”を目指すべきなのか。その秘密は、成熟市場における案件の数にある。

日本が経済成長を続けていた時代は、営業担当者の行動量と営業成績がほぼ比例していた。たとえば1日8時間走りまわって1週間で10件の契約が取れたとしたら、4時間残業することで、さらに5件の契約が取れた。これが可能だったのは、市場が成長し続けて、どこにいっても案件が溢れていたからだ。とくに工夫をしなくても案件が次から次に出てくるので、営業担当者はとにかくそれを刈り取っていれば困らなかった。

案件ではなく顧客を見よ

ところが1990年代に入って様相が一変した。市場が成熟して、案件の数が激減したのである。日本経済はこの20年間で15%以上も縮小した。業種によって異なるが、案件数が半分になったり、10分の1にまで減った業界もある。こうなると、行動量にものを言わせる刈り取り型営業は通用しない。頑張って訪問件数を増やしても、訪問先に肝心の案件がないのだから当然である。

効率性重視の営業手法が限界を迎えたのも同じ理由だ。効率性重視の営業は、「とにかく頑張って、たくさん訪問しろ」という行動量重視の営業と対極にあるように見える。しかし、効率性重視の営業は「短時間で、効率よく訪問して、刈り取り量を最大化しろ」というスタイルであり、根本は行動量に依存する営業と変わらない。案件が減っている状況においては、無駄を省いて回転率を高めたところで刈り取り量は頭打ちになるだけだ。

次に起きたのは価格競争だ。案件は減ったのに営業をかける企業の数は変わっていないので、各社は値引きで案件を取ろうとする。その結果、ただでさえ案件が少ないのに、ようやく契約にこぎつけた案件も単価が低くて利益が出ないという状況に陥ってしまった。これが90年代以降の日本の国内市場の実態だ。