仕事が天命だと思えるまでやれるか

10年に社長に就任してから、成長戦略にギアチェンジし、現在、35%程度の海外売上比率を40%以上に上げることを目指しています。進出している国の言葉や文化に精通しているグローバル人材が絶対的に必要になるでしょう。

ただ、そういったスキルの前段階として、世界で戦うために、まずは仕事への強い情熱と前向きな戦闘能力を持っていてほしい。

ずっと黒字だった半導体部門が、08年、私が半導体事業の担当本部長に就任した際、リーマンショックの影響を受け、一気に赤字転落しました。しかし、私はこういったトラブルやマイナス要因にぶち当たったときほど、がぜん意欲というか戦闘能力が高まるタチなのです。

40歳くらいの頃に読んだ井上靖の『孔子』という小説の中に、「天命を信じて人事を尽くす」という言葉が出てきます。当時の私にこの言葉が非常に腑に落ちたのです。「人事を尽くして天命を待つ」という言い方のほうが一般的ですが、これは、できる限りのことをして後は運任せでよい、というニュアンスが感じられます。「天命を信じて~」のほうが、最後まで自分で前向きにやるという印象があって、現場で日々戦う自分にはしっくりきたのです。

仕事そのものが天命だと思えるところまでやる。目的をしっかり見据えながら、情熱を持って戦ったなら結果は必ずついてくる――。逆境のときほど、そう信じてやりぬく力があるかどうか。

もう1つ、特に管理職に不可欠なのは人間的魅力でしょう。具体的に言うと、正直さ、良識さ、潔さ、そして公平さといった人間として普遍的な要素です。そこを徹底的に磨いてほしい。

私自身、「問題大好き人間」と呼ばれていますが、いつも「問題がよく見えるように見える化しろ」と言っています。問題点が明らかになるからこそ、真の原因がわかる。そして、その真の原因を改善する。これを、自発的かつ継続的に行うことができる人づくりが大切であり、それが会社の成長にもつながります。

赤字だった半導体部門もこのような改善を続けた結果として、無事、V字回復を遂げることができたのです。