テロップから読み取れる番組制作者の本音
次に、ネットなどでも物議を醸している「お断りテロップ」について考察を加える。本編終了後、いきなり黒ベースになって文字だけの画面が映し出された。
そこには「2024年10月16日 NHKはスタートエンターテイメントの所属タレントへの出演依頼を可能とすると発表した」という内容と同時に「この問題はこれで終わったとは考えていません。NHKも当時の認識や対応が十分ではなくメディアの責任を果たせなかったと自省しています(後半は割愛)」というコメントが示された。
通常、こういった番組の最後に流されるテロップは何かの「事後報告」であることが多いが、今回はそうではなく、「意思表明」だと考えられる。「出演依頼が可能」と言っておきながら「決して許さない」と断言するなど、前半と後半の「ちぐはぐさ感」も否めない。こんなことがなぜ起こったのか。
これに関しては、SNSでは2つの解釈が飛び交った。ひとつはNHKの「禊」や「言い訳」だというもの。もうひとつは、中川氏をはじめとした制作者の「怒りのあらわれ」だとするものである。私はこのどちらも正しいと見ている。
NHKは旧ジャニーズタレントの起用再開を決めたが…
これまで記したように、制作者の狙いと実際に放送された番組を見れば、番組制作者側とNHK上層部には大きな乖離があったのは明らかである。目指すものも伝えたいことも、まったくかみ合っていない。だが、放送というプロセスに至るためには、その二者が折り合いをつける必要があった。
NHK本体や上層部は「スタートエンターテイメント所属タレントへの出演依頼」を改めて強調しておきたい。そのことで放送をすることを「良し」とした。制作者側は「その主張は許容しよう。しかし、我々の主張も入れさせてもらう」ということで、両者のWin-Winのもとであのテロップが成立したのである。
そしてこのテロップから、改めてNHK本体や上層部と制作者側が見ている先がまったく違うことが露見した。制作者側は、視聴者や被害者の方をしっかりと向いている。それは「これからも向き合って調査や報道をすすめていく」という宣言からわかる。
NHK本体や上層部が見ている先
そしてその部分の主張は、実はNHK本体や上層部にとっても“都合がいい”ものなのだ。それが、テロップの最後の部分「報道・番組を通じて行い公共放送としての役割を果たしていきたいと考えています」の部分にあらわれている。
NHK本体や上層部が見ている先、気にする相手は、政府や国際社会である。ジャニー氏や旧Jへの糾弾はBBCに先を越され、国際社会からは「日本の公共放送は何をやっているのか」と非難されている。国連や政府からの風当たりも強い。そんなふうにプライドが地に落ちたいま、NHKとしては威信を取り戻さなければならない。そんな焦りが、このテロップからひしひしと伝わってくるのである。