なぜジャニー喜多川氏による性加害問題は長年放置されてきたのか。元テレビ東京社員で、桜美林大学教授の田淵俊彦さんは「ジャニー氏という『モンスター』を創り出し、利用し、ときには利用され、野放しにしたテレビを中心としたメディア側にその原因がある。NHKスペシャルに出演してそれが改めてわかった」という――。
ジャニーズ事務所社長のジャニー喜多川さんの死去を伝える街頭テレビ=2019年7月10日午前、東京・有楽町
写真提供=共同通信社
ジャニー喜多川氏の死去を伝える街頭テレビ=2019年7月10日午前、東京・有楽町

「ジャニー喜多川“アイドル帝国”の実像」に出演してわかったこと

私は、NHKスペシャル「ジャニー喜多川 “アイドル帝国”の実像」(初回放送日10月20日)に出演した。そのことで、さまざまな方面から多くの意見や感想、励ましの言葉をいただいた。改めて、この場を借りてお礼を申し上げたい。

また、番組のディレクターである中川雄一朗氏ならびにプロデューサーの内山拓氏には敬意を表したい。かなりの「バッシング」や「障害」が〝社内外から〟あったと推察する。よくこの企画を通して、放送に至るまでをまっとうした。その大変さが痛いほどわかる。 

私自身も過去に日テレの「NNNドキュメント」で、「連合赤軍の元兵士」や「ストーカー加害者」「自閉症スペクトラム障害の少年たち」を取材対象にしたときに、「なぜそんな難しいテーマをあえて選ぶのか」と訝しがられた。同じように今回も「なぜそんな番組を今やるのか」といった横槍が多く入ったことは想像に難くない。だから、そういった障壁を乗り越えて番組を実現したことは、称賛に値する。

だが、率直に言って、番組は彼らの思いとはほど遠いものになってしまった。その理由は何なのか。放送からおよそ2週間が経ったいま、自分自身の気持ちを整理したうえで、「メディア研究者」兼「大学教員」という立場から冷静に番組を検証し、その原因を徹底的に探ってみたいと考えている。

なぜ今回の番組に出ようと思ったのか

放送後、多くのメディアから「なぜ今回の番組に出ようと決意したのか」と尋ねられた。この問いに対しては、実は詳しくは話していない。そこで、ここで明らかにしておきたい。その理由は2つある。ひとつは、私自身の「環境の変化」だ。そしてもうひとつは、ディレクターの中川氏への「信頼感」である。

私は2024年3月にテレビ東京を退職し、大学教員になった。ちょうどそのころ、BBCの放送をきっかけにこの問題が表面化し、9月に旧ジャニーズ事務所(以下、「旧J」と略す)が記者会見を開いて事実を認めた。そんななか、日々学生たちに接していて「この子たちが社会に出たときに、同じような目に遭わないようにしなければならない」という思いが私のなかで膨らんでいった。

そして、2024年1月に出版した『混沌時代の新・テレビ論』(ポプラ新書)に旧Jの少年たちとの当時のことを書いた。著書やその後のジャニーズ性加害問題に関する論考を読んで連絡してきてくれたのが、中川氏だった。2024年1月19日のことだ。

中川氏は「クローズアップ現代」でジャニーズ性加害問題を取り上げ、ジャニーズ事務所を会見の場に引きずり出した人物である。その後も、元ジャニーズJr.の二本樹顕理氏をフォーカスした「事件の涙 声をあげたその先に ジャニーズ性加害問題」(初回放送日3月18日)を制作するなど、被害者に寄り添う取材を続けていた。