保育士の給与が低いのは資本主義ではなく制度の問題
国が決めることのできる保育士や介護職員の給与を引き上げることは望ましいと私は考えるが、その給与が低いのは資本主義のせいではない。
介護、保育(社会福祉の専門的職業)、看護の有効求人倍率を見ると、コロナの影響を受けていない2017〜19年の職業計の平均が1.5倍前後の時、介護、保育、看護がそれぞれ2倍、3倍、4倍程度となっていた〔厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」職業別有効求人倍率(パートタイムを含む常用)。保育士は社会福祉の専門的職業に含まれる〕。
なぜ介護などの給与が上がらないかといえば、介護は介護保険で運営されているからだ。介護職員の給与が上がれば保険料を上げなければならず、それができないから給与を安くしておくしかない。安い給与では人が集まらないから必死に求人し、求人倍率が高くなるわけである。
外国人労働者を受け入れる技能実習生制度が「現代の奴隷制度」などと言われて人権侵害や搾取の問題を引き起こしているのも、資本主義や自由主義経済のせいではない。本来、資本と労働が自由に交渉し、雇用主が競争して労働者を求めるのが資本主義である。
ところが技能実習生制度では、実習生が自由に雇用主を選べない。ここに搾取と人権侵害が生まれる。さすがに政府も技能実習生制度を改めて、外国人が、より自由に雇用主を選べるようにしようとしている(「外国人、就労の選択肢拡大」『日本経済新聞』2023年11月25日)。
すなわち、資本主義のシステムを用いて、搾取の問題に対処しようとしている。
誰も「構造改革」の意味を説明できない
この背景にも、日本の賃金が上がらず、台湾や韓国、あるいは自国と比べても、日本で搾取されながら働く経済的メリットがなくなっていることがある。これでは誰も来てくれないので、政府も真面目に技能実習生の待遇改善に乗り出したわけだ。
「新しい資本主義」の中にはコストを上げる方策が多い。しかし、コストを上げて経済を活性化することはできない。所得分配を重視するのはよいが、そのための実際の予算支出はわずかである。大きく分配状況を変えることはないが、だから成長を阻害するほど分配に力を入れないのはよいことだという判断もあるだろう。
成長戦略について否定的なことを述べたが、成長戦略は難しいということをまず認識する必要がある。
2001年初めのことである。テレビの経済討論番組で、当時の亀井静香・自民党政務調査会長に、ある有名エコノミストが「なぜ政府は小手先の景気対策ばかりで抜本的な構造改革をやろうとしないのか」と語気鋭く迫ったのに対し、亀井氏は「それではあなたのいう構造改革とはいったい何なのか」と切り返した。
このエコノミストは、それに対して何も答えられなかった(野口旭・田中秀臣『構造改革論の誤解』47頁、東洋経済新報社、2001年)。あれから20年以上たっているのに、構造改革論派のエコノミストの多くは、具体的には何も答えていない。