「氷」という漢字は間違っていた

誤字以外でよく耳にするのが「俗字」である。実例を調べてみると、私の名字「髙橋」の「髙」も俗字だった。戸籍に「髙」と記されていたので、仕事上も由緒正しく、正式名として「髙」を使っているのだが、同書によると「俗字」とは「本字の字形が長期の使用の間に省略され、また、崩れた形で流布し定着してしまっているもの」。正式のつもりが、世俗にもまれて「髙」だったのである。同様に「氷」も俗字らしい。本当は「にすい」に水と書いて「冰」と表記すべきなのに、崩れて「氷」になったそうだ。

「氷」は間違っていたのか。

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私はびっくりした。そういえば私はよく「氷」を書き間違えていた。「永」と混乱して点の位置に迷ってしまうのだ。間違えていたのは私ではなく字のほうだったのか。ちなみに「隣」も俗字。本字は「鄰」で、俗にまみれて左右反転してしまったらしい。

漢字は「ヘン」と「ツクリ」が流動する

次の「古字」とは、中国で最初に編纂された字典『説文解字』(許慎著)に所収されていた字を楷書形にしたものらしい。これは「古い字」ということで納得できるのだが、その次の「別体字」はよくわからない。略して「別体」、あるいは「或体」「同字」「動用字」などとも呼ばれているそうで、「別の系統で成立しながら、親字と同音同義であるもの」(同前)だとか。漢字はヘン(偏)とツクリ(旁)が流動するらしく、「峰」の「山」が上に移動して「峯」になったり、「略」の「田」が動いて「畧」になったり、「裏」の「里」が横にスライドして「裡」になったりする。実は「和」も本字は「咊」で、ヘンとツクリが入れ替わったらしい。この字は「口」を「禾(加える)」ということで、「調子を合わせる」ことを意味しているそうなのだ。

「或体」というだけあって人を「或或わくわく」(まどうさま)させるように漢字は動く。動きながらも「同字」の関係にある「別体字」なのだそうだ。同字で別体字。同じなら別ではないような気もするが、これらの別体字と誤字は何が違うのだろうか。実は辞書によって分類は異なるようで、例えば、『旺文社 漢和辞典 改訂新版』(旺文社 1986年)は「笑」を本字の「芺」の誤字だと断定していた。「芺」とは植物の「あざみ」。その音(ショウ)を借りて「わらう」という意味に用いたらしいが、「くさかんむり」を「たけかんむり」と間違えて「笑」になった。そこに「くち(口)へん」を付け、しなをつくる(「妖」)意を加え、「たけかんむり」も崩れて「咲」ができたとのこと。「笑」と「咲」はどちらも「わらう」という意味の同義語とされているが、どちらも間違いが重なってそうなったらしい。