もし巨大地震が起きたらどこで止まる?

これをふまえて2019年5月31日から、受け手がイメージしやすい「調査中」「巨大地震警戒」「巨大地震注意」のキーワードを付与した「南海トラフ地震臨時情報」の運用を開始した。

JR東海は2017年に地震情報発表時の運行計画の検討に着手。ガイドラインをふまえ、2021年3月に防災業務計画などの社内ルールを整備し、東海道新幹線「臨時情報(巨大地震注意)」が発表された場合は、三島―三河安城間の230km/hへの減速運転、「臨時情報(巨大地震警戒)」では、名古屋―三島間で運転を見合わせる方針を決定した。

減速運転の速度を230km/hとした理由について、同社広報室は「指定公共機関として『安全を確保すること』、『社会的使命に応えて極力移動機会を提供すること』という当社の方針、当社の地震に対する備え、国のガイドラインを総合的に勘案」したと説明し、明確な根拠には言及しなかった。

新幹線の減速度を3.5km/h/sとすると、285km/hからの停止には約1分20秒、約3200mを要するが、230km/hでは約1分5秒、約2000mとなる。一般論として速度を落とすほど早く、短く停車できるのは間違いないが、「極力移動機会を提供」との方針をふまえると、運休やダイヤ乱れを防ぐためには全線で10分程度の遅れが許容限度だったという解釈も可能だ。

複数の専門家は「臨時情報」のあり方に疑問

JR東海の対応は中途半端と感じるかもしれないが、やむを得ない面もある。TBS NEWS DIG(10月26日)によれば、今年10月21~23日に新潟市で開催された日本地震学会の秋季大会で、複数の研究家が「臨時情報」のあり方に疑問を呈したというのである。

地震学の権威である神戸大学の石橋克彦名誉教授は、臨時情報は科学的根拠に乏しく、制度設計の不備があると批判したが、注目すべきは臨時情報の仕組みは「大震法、大規模地震対策特別措置法の発想を引きずっている感があります」との指摘だ。

前述のように大規模地震対策特別措置法は、地震を予知した場合に「警戒宣言」が発令され、特別な防災対応を取る建付けだった。それが不可能として仕組みを変えたのだが、結局、臨時情報は一種の「予知」であり、臨時情報をトリガーに防災対応が始まる点では同様だ。こうした矛盾の中で、何かしらの対応をしなければならないというJR東海の苦悩が見え隠れする。

初の臨時情報発表に社会が動揺する中、翌9日19時57分に神奈川県西部を震源とするマグニチュード5.3、最大震度5弱の地震が発生した。南海トラフ地震との関連はないとされたが、巨大地震がいよいよ迫っているのではないかとの不安感が列島を包んだ。

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