震源近くを走る小田急線は乗客が徒歩で避難
この地震で東海道新幹線は、上りは浜松―東京間、下りは東京―三島間で21時頃まで運転を見合わせたが、最も影響を受けたのは小田急電鉄だった。震源間近を走る小田原線は10日未明まで一部区間で運転を見合わせ、渋沢―新松田間で停車した列車から乗客が徒歩で避難するという事態も発生した。
小田急にとってこれは考えうる最悪の条件だったと言える。渋沢―新松田間の駅間距離は、小田原線の中で最も長い6.2km。丹沢山地と渋沢丘陵に挟まれた谷にあり、人家もほとんどない。当該列車はよりによって、そのほぼ中間地点に停車した。
同社によれば、沿線10カ所に地震計を設置しており、いずれかの地震計が一定以上の揺れを感知した場合、全列車を安全な場所に緊急停止させ、安全確認を行う。今回の地震では、東日本大震災以来となる100ガル超の揺れを記録したため、線路や電気設備の損傷を徒歩点検で確認する必要がある。
駅間に列車が停車し、運転再開に時間がかかる場合は、国土交通省の指示に基づき旅客を降車避難させている。線路内の歩行は旅客に転倒などのリスクが伴うため、列車から最寄駅または踏切から線路敷地外へ誘導する対応を原則としているという。
「最悪」に対する「最善」策はまだ道半ば
当該列車は約100人の乗客がおり、運転士・車掌の2人で付近の渋沢8号踏切まで誘導した。今回は真夏の夜の出来事だったが、酷暑日の炎天下、または冬季の降雪中となれば長時間の徒歩避難は命にかかわるリスクがある。高齢者や障害者など歩行困難者がいればなおさらだ。
この点について小田急は、乗務員は想定外の状況にも迅速に対応するため、ケーススタディなどを通じて乗客の安全を最優先に、避難誘導や情報連絡など最適な対応を行えるよう努めていると述べる。
一般論の域を出ていないと評することもできるが、鉄道は1列車あたり数百人が乗車する大量輸送機関であり、仮にバスをかき集められたとしても代行輸送は難しい。鉄道事業者は「駅間停車」を最も避けるべき事態と考えているが、大きな地震や停電があれば、停止せざるを得ない。
記憶に新しいのは2023年1月24日、「10年に1度」の寒波で15センチの積雪を記録した京都府内で、東海道本線(JR京都線・琵琶湖線)の15列車が立ち往生し、約7000人が車内に閉じ込められたトラブルだ。
雪の影響でポイントが凍結し、19時頃から運行が不可能になったが、乗客の避難を決断したのは23時頃。すべての乗客の避難が完了したのは翌日5時30分のことだった。乗客が車内に閉じ込められた時間は最大9時間50分にも及んだ。
満員電車が大規模地震に巻き込まれた時にどのように乗客を救助するのか、鉄道事業者は「訓練を重ねている」と述べるが、必ずしも最悪の条件を想定しているわけではない。
遠からず南海トラフ地震や首都直下地震が発生するのは確かである。鉄道事業者が「最悪」に対して、いかに「最善」の手を打てるか。少なくとも、事前の備えが万全でなければ良い結果が訪れないのは間違いない。