東海道新幹線の検知システム「ユレダス」とは

低予算、突貫工事で建設された東海道新幹線の地震対策は、少なくとも開業時点では十分だったとは言いがたい。変電所に設置した地震計が地震を感知すると、自動的に送電を停止して列車を停車させるシステムは、開業直前の1964年6月に発生した「新潟地震」を受けて検討に着手したもので、1965年11月に仮運用を開始した。

また同年4月には静岡県の大井川河付近でマグニチュード6.1の地震が発生し、静岡市で東海道新幹線の盛土が崩れる事象が発生しており、「もう少しお金をかけてしっかりしたものにしておけばよかった」という声もあった。幸い付近に列車はなく、惨事に至らなかったが、ハード、ソフト両面で地震対策の重要性が明らかになり、地震計の増設・機能向上や盛土の補強などが進められた。

200km/h以上の高速運転を行う新幹線の運動エネルギーは巨大であり、事故時の被害を抑えるには速やかな減速、停車が重要だ。従来の仕組みでは地震動の到達まで停止の判断ができなかったが、1985年にP波から地震の規模、震央などを推定する「早期地震検知警報システム(ユレダス)」が開発され、1992年に東海道新幹線へ導入した。

JR東海はその後もユレダスの機能を強化しており、2008年に緊急地震速報、2019年に防災科学技術研究所が運用する海底地震観測網の活用を開始した。また2009年から線路に「脱線防止ガード」、車両に「逸脱防止ストッパ」の設置を進めている。

将来的には10秒早く地震を検知できるように

この他、2022年には気象庁、鉄道総合技術研究所と共同で、東南海海底地震観測網の観測データとJR東海の地震防災システムの相互利活用を進める協定を締結。将来的に現状より10秒早く地震を検知できるようになる見込みだ。

そうした中、2011年の東日本大震災を経て政府の地震防災体制は転換を迎えた。東海地震対策は「予知」を前提に、平時から警戒態勢への移行を想定していたが、現時点では地震発生時期・規模・位置について確度の高い予測は困難である。

そのため新たな方針では、「地震発生可能性」と「防災対応の実施による日常生活・企業活動への影響」のバランスを考慮しつつ、「大規模地震の発生可能性が平常時より相対的に高まった」場合に「より安全な防災行動を選択」するとした。

これを受けて気象庁は2017年11月、東海地震に限定しない「南海トラフ地震に関連する情報」の運用を開始。続いて2019年3月、政府は「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン」を策定した。

ガイドラインは、地震の発生可能性が高まったと評価された場合にとるべき防災対応を検討し、あらかじめ計画としてとりまとめるべき事項を整理。鉄道事業者に対しては、臨時情報が発表された場合、安全性に留意しつつ、運行するために必要な対応をとるように求めた。