「3カ国語こなせ」グローバルに対応

投資銀行本部ができる前、航空会社の航空機購入に対する資金供給を担当した。ところが、91年に勃発した湾岸戦争の後遺症で、新規の需要が出てこないうえ、米国などの航空会社が次々に倒産し、ここでも債権回収を手がけた。

ニューヨークの弁護士に電話をかけ、「チャプターイレブン」と呼ばれる米連邦倒産法11章に基づいて申請された案件に関して、債権を持つことを裁判所に届けさせるなど、1人でやりとりした。倒産法についても、猛烈に勉強した。よく理解していないと、弁護士への指示書も的確に書けない。わかったフリをするのは大嫌い。「恃人不如」の気合だった。

いま、事業が海外へと広がり、収益の大きな柱となっている。グループの社員は約1万8000人で、外国人が約6000人いる。国内市場の状況とグローバル化を考えれば、その比率は逆になっていく、とも想定される。5年先、10年先を考えれば、各国で優秀な人を採用したほうが、日本人を教育するよりも早いし、市場に溶け込むうえでも意味が大きい。すでに、韓国人や中国人、インド人らが、育ちつつある。

ただ、そういう外国人社員たちが日本の本社にもやってきて、いろいろな役職をこなし、また海外へ出ていく人事システムは、まだでき上がっていない。それでは、日本にいる面々がグローバル化の風に触れず、取り残される懸念もある。

2年前、社内で「2カ国語ではなく、3カ国語をこなす人間を増やそう」との方針が出た。日本語と英語だけでなく、もう1つ外国語が使える人材の登用だ。ところが、外国人は応募してきても、日本人は名乗りを上げない。どうも、「やってみたい」とは思っていても、人事担当の側の意識が、そこへ十分に向かっていないようだ。「3カ国語は無理でも、別のいいところがある」というのもわかるが、それでは、いつまでも方針だけで終わってしまう。

前回(http://president.jp/articles/-/8757)触れた、30代から40代へかけてギリシャやロサンゼルスで得た経験は、とても大きい。ほとんどのことを自力でこなさなければならず、他人には頼らない習慣が身についた。あてにしきれない人間に頼っても、何の足しにもならない、と知った。第一、すべてを自らやらなければ、裏に潜んでいることなど、本当のことがわからない。仮に問題が起きても、自分で解決したほうが早いし、納得感もある。

2011年1月、社長になったとき、社内報に「優秀なビジネスパーソンに必要なのは、独立心と想像力だ。あるいは考える力、判断力を養ってほしい」と書いた。「そのためには、たくさん勉強してほしい」と繰り返してもいる。自分たちが若いころは、不慣れな案件がきたら、まずは専門書を買って読み込むなど、自力で処理できるようになろうと努めた。でも、最近の面々は、専門書などあまり手にしないようだ。

たとえ少額の契約書でも、そのなかには「教材」がたくさん詰まっている。それを理解し、蓄積すれば、自分の力として身についていく。それも、勉強だ。なのに、「たかが、これくらい」と、右から左へ流すように契約書づくりを終わらせてしまう。結局は本人の意識次第だが、自力で難関を突破できる強者を増やしたい。やはり、「恃人不如」でなければ、世界を相手にはできない。

(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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