「返報性の原理」を活用する

【原則①】「プラスな未来」or「マイナスな未来」を見せる

人は、相手に何かをしてもらうと、お返ししなくてはいけないと感じてしまいます。これは有名な用語で「返報性の原理」と呼ばれています。

この原理が初めて発表されたのは1989年。スーパーの試食や、新商品のサンプリング、無料のセミナーなどビジネスの幅広い場面で活用されていますから、ご存じの方はもちろん、実体験のある方も多いと思います。ギブ・アンド・テイクと覚えてもよいでしょう。

あなたが何かを伝える。それによって相手は「お返し」という形で何か行動を取りたくなる。このシンプルな構図が、伝え方における原点にして王道なのです。ですが、これがなかなか難しい。あなたが単純にやってほしいことを伝えるだけでは、相手が「してもらった」と感じることはありません。

ですが、あなたが思い描いているプラスな未来を伝えることで、相手にとっては「これから起こる未来の中の良い選択肢を教えてもらった」という心情の変化が生まれます。その結果、そこへ向かいたいという感情が芽吹き、行動へとつながっていくのです。例えば、ポジティブな未来を見せることが効果的なのはこんな場面です。

・提案を採用してほしいとき
・仕事をやってほしいとき
・説得するとき
・反省を伝えるとき
・ダメ出しするとき
・励ますとき

写真=iStock.com/metamorworks
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マイナスがあるときほど「ポジティブな未来」を伝える

ポイントとしては、「お互いがプラスの方向へ進みたいとき」。他にも、こちらが伝えにくいことがある場合や、相手にとって一長一短がある場合など、「少しだけマイナスな側面があること」を伝えるときほど、ポジティブな未来を意識させることです。そもそもポジティブな提案をさらにポジティブな未来で伝えると、どうしても都合の良いことばかり言われているような気がして、胡散臭く感じてしまいますから。

他にも、励ましたい相手が「自分なんて未熟なので」といった具合にマイナスの自己否定をしている場合も、ポジティブな未来を伝えることが役立ちます。「自己否定の否定」は相手の感情を前向きに変え、自信をもたらすことにつながります。

返報性の原理には、あまり知られていない特性があります。それは、好意を受け取ると好意を返したくなる一方で、敵意を向けられると同じように敵意のある態度を取ってしまうというものです。他にも、譲歩を示せばついつい条件を緩めたくなりますし、自己開示を行うと、された側も自らの心を開きたくなります。